穏やかな昼下がり
一か月ぶりの更新。一か月に一話更新って……お前の更新速度ってのろ過ぎないか?
さて、今回もけいじばん回……と思いきや、久々の本編です。まぁ、今回は日常回ですが。
一応、新章突入という感じですね。六月はもっと積極的に更新していきたいなぁ!(五月にも似たようなこと言ってたよな、こいつ)
「……夏休みももう少しで終わりかぁ」
掃除をしていた手を止め、壁にかかったカレンダーを眺めながら何気なくつぶやいた。
長かったイベント『リバイヴ・オブ・ディスピア』も無事(?)終わり、学生の天国夏休みは終盤戦を迎えていた。あと一週間ほどで二学期となり、学校も再開する。
今日も今日とて惰眠を貪る太陽と蒼を叩き起こし、二人に朝食を作ったのが大体一時間前。二人はすでに自分の部屋に戻っている。きっと今頃はFEOの世界を楽しんでいることだろう。
俺はと言うと……ここ数日、FEOへのログイン時間は明らかに減っていた。一応毎日ログインはしているのだが、前みたいに時間いっぱいまで敵と戦ったり敵と戦ったりといった感じのプレイングは鳴りを潜めている。
一種の燃え尽き症候群とでもいうのだろうか? 前ほどこう……戦いたい! って思うことが少なくなっている。イベントでの戦闘がものっそい楽しかった事が原因と思われる。あのクソ悪魔も骨野郎も歯ごたえありまくりだったからなァ。
……その旨を太陽とか蒼とかアッシュとか後輩とかに言ったら、深刻な表情で心配されたことに対して非常に釈然としないものを感じる。あいつら、俺を一体何だと思っているんだか……戦闘しないと死んじゃう病の患者じゃねぇんだぞ。
そんなことを思いつつ、掃除を済ませてしまえば今日の家事は終了である。昼飯にはまだ余裕があるし……うん、料理本でも眺めようか。FEOに集中しているとやる暇がないからなぁ。
というわけで、リビングの窓を開け放ち、扇風機のスイッチを入れて準備は完了。ソファに体を沈めて手にした料理本を開く。彩り豊かな写真が付いたページをぺらり、ぺらりとめくり、作ってみたい料理があったらレシピを眺めて記憶しておく。
今日は真夏にしては気温が低く、風も程よく吹いていて過ごしやすい。だからなのか、ソファに寝転んで料理本を眺めていると、徐々に頭が霞掛かったようになっていき……。
「…………ぐぅ」
いつの間にか、眠気に負けてしまったのだった。
「……………………ん」
……んぅ? なにか……聞こえた……よう……な………………?
「……………………ぅ……ん」
きの……せい……? いや、でも……今……。
「……て………お…………う……ん」
確かに、誰かの声が耳に届いていた。それも、酷く聞き覚えのある声だ。
……蒼? けど、なんて言っているのか分からない。というか、だ。俺は今、何を……? ……ああ、そうか。料理本を読んでる途中に、寝落ちしたのか……。
ぼんやりとした意識がはっきりしていくにつれ、自身の現状も、さっきから投げられている声も鮮明になっていく。
俺はとりあえず、動きの鈍い瞼よりも先に、蒼に返事を返そうと口を開く……よりも先に、蒼の声が耳に届いた。
「おきて、流君。起きないと……――――キス、するよ?」
「わぁあああ!!? 起きる起きる! 起きるからそのとんでもないコトしようとすんのやめっ! やめぇええええええ!! 顔を近づけるなーーー!?」
ガバリと無理やり瞼をこじ開ければ、至近距離にある蒼の整った顔。
どこか悪戯っぽい光を宿した瞳と、僅かに上気した頬。
そして……『キス』の一言で否応なしに目についてしまう、艶やかな唇。
ドクンッ、と俺の意志などお構いなしに跳ねる心臓を無理やり抑えつけながら、半身を起こしてソファの隅っこまで後ずさった。
そして、俺が逃げたことが不満なのか、拗ねたように唇を尖らせている蒼を指さし、ふざけたことをしやがったことに対しての文句を盛大にぶちまけた。
「あ、蒼! そういう心臓悪い真似はやめろ!? つーか、寝込みを襲うような子に育てた覚えはありません! はしたない!」
「流君に育てられた覚えは……覚え……は……ありまくる、けど。はしたないは酷い。こんなこと、てーしゅくなシュクジョなわたしは流君にしかしない」
「俺にもするなっつってんだよ!?」
ない胸を張って威張るように言う蒼に、渾身の力を込めて叫ぶ。たくっ、なんで起きて早々喉を酷使せにゃならんのか……。
そんな不満を込めて蒼にジト目を送ってみるが……おい、顔を逸らすな。口笛を吹くな。ベッタベタな誤魔化し方してんじゃねぇよ。
とはいえ、これ以上ぶつくさ言ったところで無意味なのはこれまでの経験からよぉく分かっているので、話を先に進める。まぁ、抗議の意味を込めてジト目は継続するが。
「……まぁ、お前がおかしな行動に出ることに関しては今更だからこれ以上とやかくは言わないとして……なんかあったか?」
「ん、あれ」
俺の言葉に、蒼はさっと部屋の隅っこを指さしながら答えになってない答えを返してきた。蒼の指さした先には特にこれと言ったものはなかったはずなんだが……?
不思議に思いつつも、とりあえずそちらにし……せん……を……?
「……はら……へ……った……も……う……だ…………め…………がくっ」
そこには、壁にもたれかかり、ぐったりとしている太陽の姿が。なんかものすごく辛そうな雰囲気を醸し出しているが、「がくっ」って口で言ってる時点でふざけているだけなのはまる分かりだった。
けど、今こいつなんて言った? 「はらへった」……「腹減った」? …………………あぁ!?
トンデモないことに気付いた俺は、急いで時計を見る。壁に掛けられた時計が示す現在の時刻は――午後一時半。
普段なら、とっくの昔に昼ご飯を食べ終えている時間だった。
「わ、悪い二人とも! かんっぜんに寝過ごした! す、すぐに用意するからな……えっと、何があったっけ……」
ソファから起き上がり、慌ててキッチンに向かう。い、いくら気候的に寝易かったとは言え、食事の用意をすっぽかすなんて大失態も大失態だ。俺には蒼と太陽に健康的な食生活を送ってもらうという使命があるというのに……くっ、今日か明日にでも買い物に行く予定だったから、冷蔵庫の中身が乏しい! 昼食が遅れたお詫びに、ちょっと豪華なモノを作ろうかと思ったんだが……これじゃあロクなものが作れないじゃないか!
脳内にリストアップした貧弱な冷蔵庫の中身に歯噛みしていると、ちょいちょいと服の裾が引っ張られる。とっさに振り返れば、じっとこちらを見つめる蒼の瞳が目に映った。
「どうした? 昼食のリクエストなら悪いが受付不可だぞ? 材料的に素麺かラーメンか炒飯か……まぁ、そのくらいしか作れないからな」
「そうじゃない。……これ」
そう言って蒼がこちらに突き出してきたのは、コンビニの袋だった。
「それは?」
「お昼ご飯。買ってきた」
「……お前、今来て俺を起こしたんじゃないのか?」
「違う。いつもの時間に降りてきた。そしたら流君が気持ちよさそうに寝てたから、そのままにしておいてご飯買いに行った」
「そうだったのか……ほんと、悪い。外、暑くなかったか? 帰ってきてから水分補給はしたか? 熱中症とか大丈夫だったか?」
「ちゃんと帽子被っていったし、冷蔵庫の中のスポーツドリンク飲んだ。だから、大丈夫」
「なら良し。昼ご飯、ありがとな」
「ん……早く、食べちゃお?」
「おう」
頷きを返すと、蒼は買ってきた昼食を机の上に並べていく。それを手伝いながら、俺はふと気になったことを口にした。
「なぁ、蒼」
「ん?」
「お前が昼食を買いに行ったことは、太陽も知ってたんだよな?」
「ん、知ってた」
「……じゃあ、さっきの『アレ』は?」
『アレ』というのはもちろん、太陽の奇行のことだ。やたらめったら悲惨な雰囲気を醸し出して、空腹を訴えていた『アレ』。ちなみに今もまだやってる。飽きねぇのかな。
部屋の隅で……多分、ツッコミ待ちをしているであろう太陽に視線を向けながらそう問いかけると、蒼はちらりと兄を一瞥し……視線の温度を一気に氷点下まで引き下げた。
「……茶番。そんなことより、お昼ご飯」
「そ、そうか……」
どうやら太陽の奇行は『茶番』の一言でバッサリと切り捨てられてしまったらしい。それと同時に、太陽の心も……あっ、太陽が崩れ落ちた。致命傷だったか……。
「……太陽、遊んでないでお皿とか用意して。早く」
「かふぅ……!?」
「迷うことなく追い打ちとは恐れ入った」
「ん、死体蹴りはゲーマーのたしなみ」
さらりと酷いことを言う蒼に苦笑しつつ、テーブルに並べられた昼食に手を伸ばした。いただきます……の、前に。
「太陽ー、何時までもそうしてんなら、お前の好きな卵サンドは俺が貰うぞー?」
「卵サンドは渡さん! とうっ!」
「ちょっ、ソファ飛び越えんな危ないだろ!」
「こふっ!? ……さ、流石だぜ流……見事な着地狩りだった……ぜ……がくっ」
「……太陽、ネタの天丼は寒い。夏なのに凍える」
「蒼はもうちょっと俺に優しくしてくんねぇかなぁ……?」
とほほ……としょんぼりする太陽を見て、俺と蒼は顔を見合わせて笑みを零した。
夏休み終盤戦の、ある日の昼下がりは、穏やかに流れる時間と共に過ぎていくのだった。
今章のテーマは『戦士の休息』。戦いづくめだったリューくんのちょっとしたバカンスです。作中設定夏休みなのに、夏っぽいコト全然してませんからね。その部分に焦点を当ててみようと思います。バトルは少な目(当社比)になるかと。多分、きっと、おそらく、メイビー。
『人族を見限った兄妹は魔王様に忠誠を誓いました ~最凶兄妹「「魔王様に栄光あれ!」」魔王「いや待て、やり過ぎだぞ!?」~』
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