リバイヴ・オブ・ディスピア 生産場
久しぶりです。更新遅れてもうしわけない。
イーリスを連れリューがまず向かったのは、防壁の近くに造られた大きなドーム状の建物。そこは、生産ギルドが突貫工事で造り上げた、臨時の生産場である。この場所で生産ギルドのメンバーやその他ソロで活動している生産職も、生産活動にいそしんでいる。
何を作っているのかと言えば、ほとんどは消耗品……魔物を狩っている戦闘系プレイヤーが使うポーションや、食事などをせっせと生産しているのである。後は消耗した武器の手入れや防壁の上から使う兵器の開発などを行っていた。
彼らのすごいところは、そうやって生産したアイテム類をほぼ無償に近い形で提供しているところである。生産ギルドのギルドマスターであるガンダールヴの「今重要なのは金を稼ぐことじゃねぇ、イベントを絶対に成功させることだ! いいか、それを違えるんじゃねぇぞ!」という、何とも男前なセリフによって決まったことである。
それによって、戦闘職のプレイヤー達は存分に戦いに専念することが可能となり、来たる三日目の戦いに向けて各自力を着けている。彼らのほとんどはガンダールヴや生産職のプレイヤーを見ると、深々と頭を下げる様になった。
……中には、戦闘職の方が生産職よりも偉いと考えている香ばしい方々もいるが、そういう輩は上位陣の有難い『OHANASHI』を受けて改心が済んでいる。確かに戦いには戦力となる存在が必要だが、その戦力を動かすために必要なモノを、生産職たちは賄ってくれているのである。
『腹が減っては戦はできぬ』。まさにその通りだ。
そんな生産職プレイヤー諸君が集う生産場は……なんというか、修羅場っていた。
「おおおい!? まだか! 材料はまだ届かないのか!? このままではノルマが達成できなくなってしまうぞ!?」
「あはははははははは! 行ける行ける! 私なら可能だ! あと一時間で中級ポーション百本……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!」
「メートが壊れた!? メディック、メディィイイイックっ!」
「…………(ブツブツブツブツ)」
「おい、アッドのやつもヤバいぞ! さっきからよく分からねぇことを呟き続けている!」
人手が足りていないのか、注文が多すぎて間に合っていないのか。または、その両方なのか。
とにかく、生産場には怒号が飛び合い、生産のし過ぎで精神をやってしまったプレイヤーたちが奇声を発している。
軽く地獄な光景をその目に納めたリューとイーリスは、口元が引き攣るのを堪えることが出来なかった。
「…………な、中々凄いことになっています……ね?」
「そ、そうですね……一体、どうしてこんなことになっているんでしょうか……?」
二人は引き攣った表情のまま、生産場の入り口で「どうしたらいいんだろう?」と顔を見合わせていた。
すると、
「あれ、リュー……と、聖女様? どうしたんですか、こんなところで」
ひょっこりと二人の前に姿を現したのは、何やら重そうな箱を持ったアッシュだった。生産とはトンと縁がない二人がここにいることが不思議なのか、きょとんとした顔をしている。
だが、リューの名前を呼ぶ声には、呼ばれた本人以外にはバレバレな喜色が滲んでいた。イーリスの視線がすっと細くなる。
面識があるとはいえ、ほとんど話したことのないアッシュの登場に、イーリスが少し緊張したように身を固くし、すっとリューの背中に隠れた。そして、アッシュにちらっと視線を送った。
イーリスは、【ライトイーター】に襲われたあたりから、こうして初対面やそれに近い人物を警戒するようになったのだ。一種の防衛行動なのだろうが、ちみっこいイーリスがこうしてリューの背後に隠れていると、幼い妹が兄に甘えているようにしか見えない。その光景を見ていた生産職プレイヤーは皆一斉にほんわかした。
リューを見つけて嬉しそうにしていたアッシュの表情がピシっ、と固まった。
リューを挟んで、二人の視線が交錯する。生産場に負けない修羅場オーラが吹き上がる!
二人が少しばかり物騒なオーラを放っていることに露とも気付かないリューは、アッシュの質問に何でもないように答える。
「ちょっと、イーリス様がやりたいことがあるらしくて、俺はその付き添いだな……って、イーリス様? どうかしたんですか?」
「い、いえ、何でもありません。少し、この場の状況に驚いてしまっただけです」
「ああ……アッシュ、この締め切り前の切羽詰まった漫画家が大量にいるようなこの状況は一体何なんだ?」
「締め切り前の切羽詰まった漫画家……いやまぁ、似たようなものですね。実は、お昼ごろから急に戦闘職プレイヤーたちからの注文が激増したんです。注文を受けた方によると、何故か戦闘職さんたちはすごいやる気だったらしいですけど……」
そのおかげで、生産職の皆さんはてんてこ舞い何ですけどね。と、アッシュは苦笑いを浮かべた。
「お昼ごろ……? 何かあったっけ?」
「丁度、リュー様があの芸人さんたちと決闘をしてた頃ですね。それ以外に、特に変わったことはなかったと思いますが……」
芸人さん、と言うのはリューと戦った【ライトイーター】のことである。イーリスの中で、彼らのイメージは面白おかしい感じに固定されてしまっているようである。
リューとイーリスが「何かあったっけ?」と首をかしげるも、特に原因になりそうな出来事は思い当たらなかった。
「本当に、なんでなんだろうな?」
「不思議です」
「そうですねー」
そこにアッシュも加わって、三人はそろって首をかしげたのだった。
~~とある戦闘職プレイヤー共の会話~~
森フィールドにて、巨大な六本脚の熊型モンスターと戦闘中のプレイヤーの会話より。
「はぁ……はぁ……団長……もう、限界です……!」
「バカ野郎! あんなにちっちゃくて健気な聖女様が頑張っていた姿を忘れたのか!」
「はっ……そうでした。聖女様も頑張っていたんだ……! 僕も頑張らなきゃ……!」
「そうだ! その意気だ! モンスター共を蹴散らすぞ!」
「はい! 団長!」
岩山フィールドにて、小型のワイバーンを相手にしていたプレイヤーの会話より。
「オラァ! 落ちろ蚊トンボォ!」
「おい、あんまり突出するな! 囲まれたら一巻の終わりだぞ!? というか、なんであいつはバーサーク化してるんだ?」
「ああ……アレは嫉妬に狂った者の末路だよ……」
「……どういうことだ?」
「あいつ、聖女様のファンになってただろ? だけど、聖女様って……」
「ああ、リューってヤツと仲が良いんだろ?」
「そう、そんでもって、アイツはさっき二人がイチャコラしてる場面を見てしまった。……後は、言わなくても分かるな?」
「……ああ、そういうことか……」
「オラァアアアアアアアアッ! くたばりやがれぇええええええええええッ!」
「ちなみに、アイツと似たような状況になっているプレイヤーは、結構いる」
「……そうかぁ」
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いつも読んでくれてありがとうございます!
ソロ神官のVRMMO冒険記第二巻が、九月二十一日に発売します!
今回もイラストのすばらしさには目を見張るものが……そして、ついに【あの娘】がイラストに……!




