リバイヴ・オブ・ディスピア 戦闘組
二巻が発売したぞー! やったー!
生産組が修羅場っている原因が自分たちにあることなどさっぱり気が付かないリューとイーリスは、アッシュとそろって首を傾げ、結局気づかずじまいで終わった。
その後、せっかくだからと大変そうにしている生産職プレイヤーたちのお手伝いをすることにした二人。イーリスが手伝ってくれると聞いた男どもから野太い歓声が上がったのは言うまでもない。
そして、そんな歓声にびっくりしたイーリスがサッとリューの背後に隠れ、怯えた様子を見せた瞬間―――過保護な神官の『悪魔のような神官の笑顔』がさく裂し、一瞬でその場に静寂が訪れたのも言うまでもないだろう。
そんな一幕もあったが、お手伝い自体はつつがなく進んでいった。イーリスが一生懸命な様子で材料を運ぶのをハラハラしながらみんなで見守ったり、イーリスに手渡しで荷物を受け取り、「頑張ってくださいね!」という言葉を満面の笑みと共に送られた男性プレイヤーが、他の男どもから嫉妬の感情がたっぷり籠った拳を喰らったり……なんというかまぁ、愉快な感じになっていた。
ちなみにリューはと言うと……。
ギュンッ(急停止)、ヒュー(落下)、しゅたっ(着地)。
「追加の素材をお持ちしました」
「おおう!? い、今アンタ、上から降ってこなかったか!?」
「ええ、まぁ。人ごみを通り抜けるより、『頭上を飛んだ方が』早いので……」
「そ、そうか……そ、素材ありがとな」
「どういたしまして。じゃあ俺は、次の配達先に行きますので、失礼します」
タンッ(跳躍)、ビュンッ(上昇)、ぎゅいんっ(高速機動)!
一瞬で上昇し、飛翔していったリューを目で追う素材を受け取ったプレイヤーは、唖然とした表情を浮かべながら、ぽつりとつぶやいた。
「やっべ……神官まじやっべ……」
こちらも、おおむねいつも通りである。
そうして、生産場での視察を終えた二人は、アッシュやその場にいた生産職プレイヤーたちに別れを告げ、次なる視察の場へと足を運んだ。
「総員、抜剣ッ!」
「「「「「はッ!!」」」」」
鋭く告げられた号令に従い、横に広がり隊列を組んでいる者たちが、一斉に己の武器を構えた。一連の動作は何度も繰り返して体に覚えさせたかのように、惚れ惚れするほどにそろっていた。
武器を構え、倒すべき敵を見据える戦士たち。彼らの瞳は闘志に燃えている。絶対に目の前の敵を打ち倒してやるという決意がありありと見て取れた。
ここは、城内にある訓練場。学校の運動場を何倍にも広くしたようなその場所は……今、戦場と化していた。
近接武器を構える前衛が三十人。それを補佐する中衛が二十人。後方より遠距離攻撃を叩き込む後衛が三十人。回復、補助を務める者が十人。遊撃が十人。
計百人のプレイヤーで構成された軍隊……そう呼ぶのにふさわしい光景が、訓練場に広がっていた。
そんな軍隊が相手にするのは……たった、十一人。
「さぁ、かかってきなさい! 一人残らず細切れにしてやるわ!」
「相変わらず暑苦しいですわね。……けどまぁ、わたくしたちの力を彼らに見せつけるという部分は賛成ですわ」
「うわー! いっぱいいるねー!」
不敵に、優雅に、無邪気に。三者三様の笑みを浮かべるサリア、ローズ、コノハ。
「はぁ、一体こんな馬鹿げた企画を誰が考えたのやら……無茶ぶりにも程があるだろう?」
「なんや、ビビっとんのかハイリ? 怖いんやったら後ろに下がっとき。ワイが残さず全部かたずけたるわ!」
「……どうでもいい。どっちにしろ……俺たちが勝つ」
頭を押さえため息を吐くハイリ。そんな彼女の弱気な発言をライゴが一蹴し、パルケスは手にした銃をいじくりながら、ぼそりとつぶやく。
「がはははッ! なんとも心躍る戦場だのう。戦意が昂って溢れそうだッ!!」
「あはは、そうですね。頑張りましょう」
いつも通り暑苦しいフガクに、ケイルは柔らかな微笑を浮かべて見せた。
「……いやいや、百対十一ってなんなんすか? 企画者頭おかしいっすよ……こんなの、時間がかかってしょうがないじゃないっすか」
「……ん。発案者はアポロ。……要するに、頭おかしい」
「はっはっは、オイコラサファイア!」
嘆くように言うマオ。サラッと酷いことをサファイア。それにツッコミを入れるアポロ。
百人を前にしても、まるで動じていないどころか、ふざけているようにさえ見える十一人……ソロ専門と生産職を除いた【フラグメント】のメンバーだ。
それすなわち……FEO最強の集団である。
百対十一なんていう無茶な企画が通ったのは、相手が彼らであるからだ。名実ともにFEO最強のギルドと名高い【フラグメント】。少数精鋭が売りの彼らは、一人一人が平凡とはかけ離れたところにいる実力者たち。それゆえか、普通なら尻込みして当たり前のこの状況で、ほぼ全員が口元に笑みを浮かべている。
それは、強者の余裕か。それとも、己の勝利を疑わず、他者に疑わせることもしないという決意の表れか。
どちらにせよ、百人を前にして笑みを浮かべることのできる彼らに……相対するプレイヤーたちは、気圧されていた。ざわり、と動揺が広がり、美しくそろった隊列がわずかに乱れる。
「――――んじゃ、始めるか」
開幕の狼煙は、アポロが放った一言だった。
「……ッ! そ、総員……突撃ぃいいいいいいいいッ!!」
アポロたちの放つ威圧感に飲まれていた指揮官役のプレイヤーが、どもりながらも百人に攻撃命令を出す。
「「「「「ォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」
命令を受けたプレイヤーたちが、【フラグメント】に襲い掛かる。近接を生業とするプレイヤーは武器を振り上げ、遠距離部隊から魔法や矢が放たれる。
「オラァ! 行くぞお前ら! 【フラグメント】の力を存分に見せつけてやれッ!!」
【フラグメント】の面々も、アポロの号令で動き始める。
そして、戦いは始まり……。
―――――――――三十分後、【フラグメント】の圧勝と言う形で幕を閉じたのだった。
「……す、すごい…………」
「確かに、凄いですね……」
戦いの様子を訓練場を俯瞰できる場所から眺めていたリューとイーリスは、素直な感想を溢した。イーリスは目を真ん丸にして驚いており、リューも軽く目を見張っている。
二人の眼下で繰り広げられているのは、十倍近い人数差がある状況で、少人数の方が相手を圧倒しているという非常識な戦い。
その中でも特に際立っているのは、やはりアポロとサファイアの二人だった。
飛来する魔法も、振り下ろされる武器も、その全てをアポロは受け止めて見せる。一部の隙すら見せず、ありとあらゆる攻撃を防ぐ姿は、堅牢な要塞を思わせる。
サファイアの使うたった一発の魔法が津波を呼び、多くの敵を巻き込んでいく。そこに放たれる猛烈な吹雪。あっという間に氷でできた巨大なオブジェが出来上がる。
他のメンバーもそれぞれが素晴らしい動きを見せており、それでいて連携はしっかりととれている。上から見下ろす彼らの戦いは、見事の一言に尽きた。
どんどん数を減らしていく軍隊側のプレイヤーたち。彼らも必死に抵抗しているが、【フラグメント】の進撃は止まらない。
ほどなくして、最後の一人をアポロが斬り捨て、戦いは【フラグメント】の勝利という結果に終わった。
「はぁ~~~す、すごかったです……あれが……【フラグメント】……異邦人の方々の中で、最強のギルドと名高い方々ですか……。噂には聞いていましたが、実際に見るとまたすさまじいですね」
「あれ? イーリス様は、アポロたちのことを前から知っていたんですか?」
「ええ。彼らの活躍は有名ですからね。信者の方から話を聞いたりするんです」
「へぇ、そうなんですか……」
リューは【フラグメント】……というより、アポロとサファイアが有名だと聞いて、口元に小さく笑みを刻んだ。妹分と弟分が褒められて鼻高々なお兄ちゃんであった。
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