リバイヴ・オブ・ディスピア 不穏
痛恨のミス。何やってんだかって感じですね。
ああ、ソロ神官が重版しましたー。買ってくれた人、ありがとねー。
(本日二回目)
リューの甘い……それはもう、聞いているだけで砂糖をキロ単位で吐き出しそうになるほど甘ったるいセリフを受けて、モンスターへの恐怖感を克服したイーリスは、それからも精力的にモンスターを倒し続けた。最初は一対一で格下の敵を相手にするのが限界だったが、昼頃には複数のモンスターが相手でも立ち回れるようになっていた。
イーリスがここまで戦えるのは、本人の素質やレベルの高さといった要素のほかに、やはりリューの存在が大きい。万が一、危ないことがあっても、絶対にリューが守ってくれる。彼女の胸に宿る信頼と安心感。それが、イーリスをのびのびと戦わせるのだ。
そんな聖女様は、もう少しでお昼の休憩ということで、午前の最後に少し強めのモンスターを相手にしていた。
「【ホーリーバレット】!」
イーリスが自らの周囲に浮かべていた聖なる光弾を眼前の敵―――ホブゴブリン・ウルフライダーに向かって打ち出した。光弾はその身を光の帯と化しながら、狼に乗ったホブゴブリンを貫こうとする。
「ギャギャッ」
「くっ……。すばしっこいですね!」
しかし、ホブゴブリン・ウルフライダーは機敏な動きでそれを回避し、イーリスを小馬鹿にする様に笑って見せた。
悔しそうに歯噛みしたイーリスは、次々に魔法を放っていく。しかし、四足獣の機動力を持つホブゴブライダーには、掠りはしても直撃させることが出来ない。
「ギャギャッ!!」
「【ホーリーシールド】!」
だが、攻めきれないのはホブゴブライダーも一緒であった。突進と共に狼の上で剣を振るうが、イーリスがタイミングよく発動した魔法の盾に阻まれる。イーリスはその気質からか、攻撃よりも防御を得意としていた。【ホーリーシールド】の発動タイミングや出現位置は絶妙の一言に尽きる。
そこからは、一進一退の攻防が繰り広げられた。イーリスが魔法を放ち、ホブゴブライダーがそれを回避する。ホブゴブライダーが剣を振るい、それをイーリスが防ぐ。その繰り返しだ。
しかし、その拮抗は徐々にホブゴブライダーの有利へと傾いていく。三~四回に一回くらいの確率で、イーリスの防御が間に合わなかったり、ズレるようになったのだ。それでもイーリスは体捌きで避けたり、手にした杖で防いだりと、ダメージだけは受けないようにしていた。
「ギャギャッ」
目の前の獲物はすでに弱っている。魔法の精度は時間が経つにつれて疎かになっていき、表情はどんどん険しくなっていっている。ホブゴブライダーが笑みをこぼした。それは自身の勝利を確信し、敗者となるであろう相手を嘲る笑み。
だから、ホブゴブライダーはそのことに気が付くことができなかった。
「あっ……!」
ホブゴブライダーの攻撃を魔法で防ぐことができず、回避を選択したイーリスが、ずるっと足を滑らせてしまう。完全に転ぶことは避けたが、地面に手を付いてしまった。
「ギャッ!!」
それを好機ととらえたホブゴブライダーが、乗っている狼に指示を出し、高速の突進を決行する。アーツの発動を示すオーラを身に纏い、体勢を崩しているイーリスへと襲い掛かった。
その一撃は、的確にイーリスの頭蓋に吸い込まれていく。当たれば大ダメージでは済まないだろう。どう考えてもこれは、生命の危機。
けれど、それを見ているはずのリューは動かない。それどころか、その口元には笑みが浮かんでいた。何かを確信しているかのような、そんな笑みが。
イーリスにホブゴブライダーの剣が命中する直前、聖女様の小さな口から、その宣言が放たれた。
「今です! 【ホーリープロテクト】!」
直後、イーリスの体が光り輝く障壁に包まれた。それは、【ホーリーシールド】よりも上位の防御魔法。術者を覆うドーム状の障壁を張り巡らすという魔法だ。
ガキンッ! とホブゴブライダーの剣がその障壁に阻まれる。全力の突進の力を込めた全力の振り下ろし。それを受け止められたホブゴブライダーの表情に驚きが浮かび上がり、その場に停止してしまった。
そして、イーリスはその隙を見逃さない。
「【ホーリーバインド】!」
魔法が発動し、地面から飛び出た聖気で編まれた鎖がホブゴブライダーの体を雁字搦めに拘束する。なんとか抜け出そうともがくが、鎖の拘束力はかなり強く、びくともしない。
そして、ホブゴブライダーは悟った。この状況は狙ってできたものだと。自分はまんまと罠に嵌ってしまったのだと。
「上手くいきましたね。そして……これでとどめです! 天に還れ! 【ホーリーピラー】!」
ホブゴブライダーの足元に魔法陣が広がり、そこから天に向かって昇る聖気の奔流がすべてを飲み込んでいく。それは、イーリスが使うことのできる中で最も威力の高い魔法である。その威力はすさまじく、聖気が消え去った後には、ホブゴブライダーなど欠片も残っていなかった。
戦闘が終わり、ほっと一息ついているイーリスに、パチパチと拍手をしながら近づいてくる足音が一つ。音が聞こえてきた方に振り向いたイーリスは、視線の先で笑みを浮かべているリューの姿を確認し、えへへと嬉しさと恥ずかしさの入り混じった笑みを返した。
「お疲れ様です、イーリス様」
「どうでしたか、リュー様?」
「完璧でした……と、言いたいところですけど、途中で転んだのはいただけませんね。単純な相手だったから問題なかったですけど、あの状態で遠距離攻撃でもされていたらどうします? 魔法での防御を超えてくる威力の攻撃手段を持っている可能性もあったんですよ?」
「………………はいぃ……」
笑顔から一転、リューに叱られたイーリスは目に見えてわかるほどしょんぼりとした。さっきまで元気よく振られていた尻尾(幻覚)が、今はへにょんと垂れ下がっている(これも幻覚)。
そうして顔を伏せているイーリスを見て、リューが言い過ぎたかと慌てだす。なんとかイーリスを慰めようとするが、心の傷は深かったのか、中々立ち直ってくれない。
結局、召喚したアヤメと二人がかりで慰めることで、イーリスはやっと復活したのだった。
「むふー」
「あの……イーリス様? 俺はいつまでこうしていればいいんですか?」
「もうちょっとです。もうちょっとで頑張れそうです!」
「そ、そうですか……」
「……………(むすぅ)」
イーリスは、アヤメを背後から抱きしめ、さらにはリューに頭を撫でてもらっているという状態にいた。慰めているうちに自然とこの体勢になったのだが……聖女様、滅茶苦茶満足そうである。さっきまでの落ち込みようが嘘のようである。
そんなイーリスにあはは……と乾いた笑みを浮かべる。なんだか、随分と懐かれてしまったようだ……と、リューが考えたその時だった。
「――――オイ、てめぇがウワサの神官ヤローか?」
そんな言葉が、リュー達の背後から投げかけられた。友好的な響きなどこれっぽちも感じられない、不快感を覚えるような声音で。
そして、同時に叩きつけられた強い――――『敵意』。それを感じ取ったリューは、がばっと声の方へと振り返った。
そこにいたのは、十人ほどの男たち。その誰もが、嘲笑、蔑視、敵意……そんな、良くない感情をリューへとぶつけていた。
その中から、一人の男が歩み出てきた。男はリューを視界に納めると、にやにやとした気味の悪い笑みを浮かべ、一方的に話しかけた。
「なぁ、神官サマ? ちと、俺らと戦ってくれねぇか?」
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