新しい装備、アヤメ編 後編
どうしてか、いきなり喧嘩腰でにらみ合うアッシュと後輩に、俺もアヤメも困惑することしかできない。
「ふふふ……始めまして、どちら様でしょうか?」
「……私は『先輩の』後輩兼ギルドメンバーっすよ。名前はマオっす。あなたは?」
「私は『リューの』友達兼専属職人です。名前はアッシュ。よろしくお願いします、後輩さん?」
「こちらこそっす、職人さん?」
「ところで、今日は別にあなたは呼んでいませんが? 何かご用でしたか?」
「別に、職人さんに用はないっすよ。先輩の付き添いっす。私は昨日も今日も、先輩とずっと一緒でしたから」
「なっ……。へ、へぇ、そうだったんですか」
「……ふふっ」
「……あははっ」
……何だろう、二人のやり取りを見ていると、背筋が寒くなってくる。ここだけ気温が一気に5℃くらい下がった気がする。って、後輩の腕の中にいるアヤメがおびえて真っ青になってるじゃないか! 二人とも、ストップストップ!
何とか二人をなだめ、アヤメを解放することに成功。ガクガクと恐怖に震えて、俺にぎゅ~っと抱き着いてくるアヤメを見て、ばつが悪そうな顔をするアッシュと後輩。うんうん、小さい子の泣き顔の前では、どんな諍いだろうと敵うまい。
「よしよしアヤメ、もう大丈夫だぞー? 怖いお姉ちゃんたちはもういないからなー」
「「ちょ!? 怖いお姉ちゃんってなんです(なんす)か!?」」
「………………(びくっ)」
見事なユニゾンを決めた二人のツッコミに、アヤメが肩を震わせ、俺に抱き着く力を強くする。
「………………(ふるふる)」
「ああ! ごめんなさいアヤメちゃん! 怖がらせるつもりは……」
「な、なんか私が虐めてるみたいじゃないっすか!? 泣かないでほしいっすよ~」
「………………(ぷいっ)」
「「ああっ!?」」
そんな絶望感に満ち溢れた声を出されても……。アヤメももう怖がってないと思うぞ? まだ俺に抱き着いてはいるが、ケモ耳はピーンって立ってるし、尻尾もご機嫌に揺れている。
「……アヤメ? 二人もこうして反省してるみたいだし、そろそろ許してやったらどうだ?」
「………………(むぅ)」
「そこを何とか、な?」
「………………(こくり)」
「そうか。偉いぞ、アヤメ。……というわけだ。良かったな、二人とも」
「うぅ……。アヤメちゃんに嫌われたら、生きていけませんよう……」
「いや、そこまでじゃないっすけど……。やっぱ、小さい子に嫌われるのは嫌っすね」
「というか、どうしてあんなに仲が悪いんだよ。初対面のはずだろ? 前世からの因縁でもあるのか?」
「「無いです(っす)」」
「じゃあ、原因は何なんだ?」
「原因……ですか」
「原因っすか……」
ふむ、と考えながら互いに顔を見合わせる二人。そして、向かい合った状態で一度うなずきあうと、ゆっくりとその原因を指さした。…………って、俺?
「……どういうこと?」
「「自分で考え(てください)(るっすよ)」」
「あっれ、いつの間にか意気投合してる!?」
展開についていけずに愕然としているうちに、どんどん仲良くなっていく二人。
「じゃあ、マオってよばせてもらいますね」
「いいっすよ。じゃあ私もアッシュって呼ぶっすから」
「呼び捨て……。う、うれしいです!」
「えっと、呼び捨てくらいでそこまで喜ばれても……。もしかしてアッシュ、ぼっち……いえ、何でもないっす」
「言ってますからね? 全部言っちゃってますからね!? 後、私はぼっちじゃありません! ちゃんとリューとサファイアという友達がいます!」
「ちなみにっすけど、その二人以外には……あ、いないんすね。その反応で十分わかったっす」
「ふふ……。私なんて、私なんて……」
「わ、私が悪かったっす! お、お詫びと言ってはあれっすけど……。私と、フレンド交換してくれないっすか?」
「ふふふ……。………え? い、いいんですか?」
「勿論っすよ。……それとも、アッシュは私とフレンドになるの、嫌っすか?」
「い、いえ! そんなことないです! ぜひぜひお願いします!」
「そうっすか。良かったっすよ。それじゃ、申請送るっすよー」
「はいっ!」
嬉しそうに笑うアッシュ。それを優しい視線で見つめる後輩。そこに、さっきまでの剣呑な雰囲気は存在していなかった。
フレンド申請を、真剣過ぎる表情で見つめるアッシュを見て、後輩が噴き出す。笑われたアッシュがむくれて見せると、口端をニマニマさせた後輩が軽い謝罪をし、申請を受諾するように促す。後輩に言われるままにフレンド申請を受け入れたアッシュは、メニューを開きそれを高速で操作し、何かを確認すると、にへらぁと締まりのない笑みを浮かべた。それを見守る後輩の視線は、どこまでも優しい。
……うん、二人が楽しそうで何よりだよ。
けど、そろそろ本題に入りませんか? ほら、アヤメも退屈そうにしてるよ?
「す、すみません。つい、嬉しくて……」
「いや、別に怒ってるわけじゃないぞ? アッシュにフレンドが増えるのは良いことだしな。ありがとな、後輩」
「別に先輩にお礼を言われることじゃないっすよ。私がアッシュとフレンドになりたいって、そう思っただけなんすから」
何とか二人の世界から戻ってきてくれたアッシュの案内で、個人生産場の中に入る。
学校の多目的室ほどもある部屋に、裁縫台や鍛冶のための炉、キッチンなど様々な生産器具が置かれている。
「じゃあ、さっそくアヤメちゃんの装備を渡しますね」
「ああ、よろしく頼む」
「アヤメちゃんの新装備っすかー。どんな服着ても似合いそうっすね。アヤメちゃんは格闘少女っすから……チャイナドレス?」
「いやいや、流石にそれは……」
「はい、候補としてはあったんですけど、アヤメちゃんにはちょっと似合わないかなって」
「候補にはあったのかよ!?」
アヤメにチャイナドレスか……。いやまぁ、素材が最高級だから、何を着ても大抵は似合うだろうけど……。流石に『アウト』だろ。いや、何がとは言わないけど。仮にチャイナドレスなんぞ着せた日には、あのロリコンがまた襲い掛かってくるぞ?
地を這い迫ってくるロリコンという恐ろしい想像をあたまを振って散らし、アッシュから送られてきた数々のアイテムをアヤメに装備させていく。
生産場になぜか設置された小型ステージの上に立たされたアヤメの体が光に包まれる。装備が変更されているのだ。
光ったのはほんの一瞬だけ。すぐに輝きは収まり、そこから姿を見せたアヤメは……。
「……巫女さん?」
「はいっ!」
「おおう、めっちゃ可愛いっすね……」
「でしょう? ふっふーん、自信作です!」
アヤメの新しい装備。それは、どこからどう見ても『巫女服』であった。正月になると神社のバイトさんが着てるアレである。
白衣に緋袴。足元には足袋と草履。ガントレット替わりに弓道の籠手のようなものが装備されている。アヤメの純白の髪は背中あたりでまとめられ、髪留めが飾っていた。
純白と鮮紅のコントラストが美しい。前の装備と打って変わって露出は最小限になったが、それが清楚さをこれでもかと醸し出し、一種の神性を感じさせる。
率直な感想を言わせてもらおう。
百点満点です。
「………………(ちらっ、パタパタ♪)」
ちらりと変化した自分の見回し、そして機嫌よく尻尾を動かし始めた。うん、アヤメも気に入ったみたいだ。全身を見たいのか、その場でくるくると回っている姿は最上級の癒しである。
「アッシュ……」
「なんですか、リュー」
「……グッジョブ」
「ありがとうございます♪」
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