新しい装備、アヤメ編 中編
おわらなかった……。
「いや、悪い悪い。ちょっと落ち着きを忘れてたわ」
「まったく、しっかりしてくれないと困るっすよ……。今日は遅刻しなかったーって思って来てみたら、先輩いきなり逆走するんすから。何事かと思ったっす」
「あはは…………。すみません」
「………………(ぽんぽん)」
正座で後輩に怒られる俺を慰めるように、アヤメが頭を撫でてくれた。ホントによくできた相棒だな、アヤメは。お礼に俺もアヤメの綺麗な白髪を撫で、そのちっちゃな体を膝に乗せる。
「先輩? ロリっ子といちゃついてないで、ちゃんと私の話を聞くっすよ」
「いちゃついてねぇよ。人をロリコンみたいに言うのはやめろ」
「……今の先輩の体勢見たら、誰だってロリコン認定降すはずっすよ? ロリコン先輩」
「やめんか」
人をロリコン呼ばわりする悪い後輩には、ある程度の制裁が必要だろう。ということで、いけ! アヤメ! 後輩にくすぐり攻撃だ!
後輩に聞こえないように、アヤメのぴこぴこ揺れるケモ耳に命令をささやくと、瞳を「キュピーン!」と光らせたアヤメが、俺の膝から跳び上がり、後輩に襲い掛かった。
「えっ!? ちょっ!?」
「………………(こちょこちょ)」
「ひゃっ! や、やめ……あ、あははははははッ! く、くすぐった……あはははははははははははッ!」
「いいぞ、アヤメ。もっとやってやれ」
「………………(こくこく)」
「何言ってやがるっすか先輩! ちっちゃい子けしかけてくすぐらせるとかアンタ鬼っすか!? 先輩の外道! 悪魔! ロリコン!」
「……アヤメ、全力全開だ。やれ」
「………………(こちょこちょこちょこちょ)」
「ひゃははははははははははははははははッ! ぎ、ギブギブ! お、お腹イタイっす!」
「……ま、もういいだろ。アヤメ、ストップだ」
「………………(こくり)」
「ぜぃ…ぜぃ…、ひ、ひどい目にあったっす……」
息も絶え絶えといった様子でへたり込む後輩。ふふふ、思い知ったか。
「これに懲りたら、人を不名誉な名で呼ばないことだな。よくやったぞ、アヤメ。よしよしっと」
「………………(パタパタ)」
良いことをしたら褒める。これは基本です。
頭を撫でられ、機嫌よさげに尻尾をふるアヤメ。その光景を映像にして世界中に流せば、この世から争いはなくなるんじゃないかってくらいの癒しだ。よーし、俺もっと撫でちゃうぞー。
「……やっぱロリコンじゃないんすか?」
「もう一回、アヤメのくすぐりを受けたいのか? 後輩」
「あっはっはー、遠慮しとくっすよ」
「ったく……」
「ほらほら、何か用事があったんじゃないんすか?」
「ああ、ドゥヴィレに行くことになるんだが……お前も来るか?」
「アヤメちゃんの新装備でしたっけ? 興味があるので行かせてもらうっす」
というわけで、後輩とアヤメを引き連れて、一度トロワヴィレに戻り、そこから転移でドゥヴィレに。
相変わらず人が多く、熱気あふれるドゥヴィレを進み、たどり着いたのはアッシュのいる合同生産場である。
合同生産場に入ると、中にいた生産職プレイヤーたちの視線が一斉に俺たちの方に向けられた。そして、こそこそと何かをささやき始める。
よくよく見れば、ここにいる生産職プレイヤーに見覚えがあった。あの高慢女の一件の時に巻き込まれていた人たちだ。あのシーンを見られているのなら、この反応も仕方ないだろう。
プレイヤーたちの視線を集めながら、合同生産場内を歩き、アッシュのところに……って、アレ? アッシュがいないんだが?
「おい、兄ちゃん。アンタがリューか?」
「え? そうですけど……」
合同生産場のどこにもアッシュの姿が見えずに、どうしようかと周りを見渡していると、一人の生産職プレイヤーが声をかけてきた。ツナギを来たドワーフ族のおっちゃんである。
「アッシュの嬢ちゃんを探してんだろ? 嬢ちゃんなら、向こうの扉からいける個人生産場にいるぜ。部屋番号は442な」
「そうでしたか、教えてくださり、ありがとうございます」
「おうよ。ま、嬢ちゃんにお前さんが着いたら教えてやってくれって頼まれてただけなんだがな」
がはは! と笑うおっちゃんにもう一度お礼を言って、合同生産場の奥にあった両開きの扉を開ける。その先は廊下のようになっており、左右に一つずつ。廊下の奥に一つ扉があった。
その光景を、俺の後ろからひょっこりと顔を出した後輩が、興味深そうに眺める。
「へぇ、この奥ってこうなってたんすね。初めて知ったっす」
「来たことないのか?」
「私は生産職じゃないっすからねぇ。合同生産場に足を踏み入れるのも久しぶりっすね」
「ふーん。そんなもんかね?」
「そんなもんすよ。あ、あの奥の扉のプレート、442って書いてあるっすよ。あれじゃないっすか?」
「ああ、あれみたいだな。じゃ、いくか」
「はいっす」
442というプレートをが取り付けられた扉を前に、一瞬どうしようかと迷う。ノックすればいいのか、声をかければいいのか……。と、後輩が何かをちょいちょいと指さしていた。
呼び鈴のマークがついたボタン……。ああ、インターフォンついてるのね、この扉。ドアノッカーとかの方が似合うんじゃないか? とか考えつつ、ボタンをプッシュ。直後、ピンポーンと軽い音が鳴った。
「(がちゃ)はーい、どうかしましたか……って、リュー!」
「こんにちは、アッシュ」
扉が開き、中からアッシュが顔を出した。俺の姿を見て驚いたように目を丸くする。
「今日の朝、連絡したばかりなのに、随分早かったですね」
「アヤメの新装備のためならこのくらいは、な。後、久しぶりにアッシュに会いたかったし」
「なっ!? い、いきなり何を言い出すんですかぁ!」
あれ? なんか俺、変なこと言ったか? いきなり赤面して怒り始めたアッシュに、訳も分からず首を傾げる。
「……うっわー、ここにも先輩の被害者がいたっすよ……。見境ねぇっすねぇ……」
「………………(こてん?)」
「アヤメちゃんは知らなくてもいいことっすよ」
後ろで後輩が何か言ってるけど……。見境ないって何のことだよ。
と、ここでアッシュが俺の後ろにいた後輩の存在に気付いた。後輩の方も、アヤメを後ろから抱きしめるようにしながら、アッシュへとまっすぐ視線を向けた。
「……リュー、こちらの方はどちら様ですか?」
「ああ、こいつは……って、アッシュ? なんか顔が怖いんだが……?」
「先輩先輩、私にもこの人のこと教えてほしいっす」
「おう、いいぞ……って、お前もなんか妙なオーラが出てないか……?」
どこかうすら寒いものを感じさせる笑みを浮かべるアッシュと、全身から拒絶オーラをまき散らす後輩がにらみ合うように視線を合わせる。二人の視線が交錯する中間地点で、バチバチと火花が散った(ような気がした)。
感想、評価、ブックマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。




