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6.砕氷



早く見つけなければ…。


その気持ちだけで、街中をかけずり回った。さすがにここまで来ることは無いかと考えながらも、足をとめることなど出来なかった。





―――俺の愛しい、儚


人ごみの中で一瞬見なれた姿を見つけた気がして、必死に目を凝らす。

手あたりしだい探し回って、今はもう自分の勘にすがるしかなかった。


「…は、かな?」


うわ言のようにつぶやいた後、身体中が歓喜に震えた。たしかに儚の後姿だ。邪魔する人波をかき分け、愛しい彼女を求めて進む。

疲れたと思っていた足が、驚くほど素直に動いてくれた。


嗚呼、やっぱり彼女だ。

彼女しかいないのだ。


どんなに遠くに逃げたとしても、追いかけるし見つけてしまう。

運命などと甘ったるい言葉を遣う気はないが、これは決められた事なのだ。人の間を抜け、腕をとる。その身体からだは思ったよりも軽く、勢いが強すぎたとでも言うように、彼女がよろめいた。


「――――――。」


儚…は、儚はこんなにも危うかっただろうか?

これまで頭を巡っていた言葉が、一瞬で吹き飛び黙りこむ。元より身長は小さい方だったが、それほど痩せすぎている訳ではなかった。何よりも目が―――。


何よりも目が、生気をなくしているのである。

先ほど興奮していたのが嘘みたいに、心細くなってきた。彼女がこんな状態になったのには、少なからず俺が関係しているはずなのだ。


「儚?どうしたの、何処に行こうとしてたの?」


俺は動揺を隠すかのように、優しく問いかけた。

同棲していながら、これだけ変わっている彼女の体にすら気付いていなかった事がショックだった。しかし儚の口から出てきたのは、予想外のことばだった。


「わったし…?あのね、かつきを探しに行くの。

 また私、置いて行かれちゃったの…」


どうしてもいやだって言ったのになぁと、子どもの様につぶやく彼女にかける言葉が見つけられなかった。黙り込んだ俺を気にすることなく、儚は続ける。


「でもね?今度はもういやだから…。

 かつきだけは失いたくないからね、追いかけて行くことにしたの」


…俺を?儚は、俺をさがしに行くと言っているのか?


これが儚だけが呼ぶ、彼女がつけた俺の呼び名だと分かってはいるが、認めたくなかった。その想いと裏腹に、わかってしまった。




―――そうか。儚は一人でいても大丈夫だったのかもしれない。

でも……。独りになることはたまらなく怖かったんだな。


人付き合いが苦手で、両親を亡くして久しい若い女の子が、あんなに聞き分けよく出来る筈がなかったのだ。臆病な彼女は、知らず知らずのうちに俺が抱いていた儚の理想像に沿おうと必死だったのかもしれない。


そんな事をしなくても好きなのに…。

そうは思うが、好きだという言葉はおろか、この気持ちを具体的に伝えたことすら無い俺に、責める権利などありはしないだろう。




儚はいまだに、俺を……。かつきを、壊れた瞳で見つめていた。




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