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5.静かな咆哮

タイトルに違和感を感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、すみませんわざとです。相反する感情に苦しむ姿が好きなので、少しでも伝われば嬉しいです。


何時間も色々なところを探し回った。


走っても走っても、儚との距離がどんどん離れていくようで、寒空のした俺は汗をかきながら、気が狂いそうだった。儚がみつからないという事実の他に、どんどん俺と彼女の関係が穴だらけだということに気付いてしまったのだ。


儚の知り合いなどしらない…。


前の職場に一人くらい親しい人間がいても不思議はないし、学生時代の友人だっているだろう。同棲までしていたのに、彼女の友人すら俺は知らなかったのだ。


親しい親族もいない彼女には、両親が亡くなってからは頼れる親戚もいないはずだ。そうなると、俺が彼女の親しいものに連絡を取ることは出来ない。……一人で探すしかないと、早々に諦めるほかなかった。




走りながら、儚といったいろいろな場所を思い出そうとした。

初めて出逢った場所や、デートした場所。さまざまな場所が頭をめぐった。しかしそのどれも、彼女が行きそうだとピンとくる箇所はなかった。人ごみを嫌う彼女とは、極力落ち着ける場所を選んでデートを重ねていた。何処どこもそれなりに喜んではいたが「一緒に暮らそうと」いった時ほど顔を輝かせてくれたことは無かった。



二十代前半という事もあり、まだまだ甘えたい盛りだろうに儚は、俺に対して必要

以上に頼ることは無かった。女性、特に彼女に奢ったり贈り物をするのは当たり前になっていた俺に対し、初めてのデートでお金はきちんとしたいのだと怒られた時は驚いた。

大人しい儚がはっきり考えを口にするだけでも珍しいのに、十歳近く年下である儚に怒られた時は少し嬉しく感じもしたが、年の差は遠慮につながっていたようだ。



俺にとったらそんな彼女が可愛くてしょうがなかった。

不器用で、甘え下手で臆病な儚のことが、愛しくてしょうがなかったのだ。

今まで感じたことのない安らぎも、彼女とだから得られた。他人と暮らすことなど

考えたこともない過去の俺からしたら、驚くべきだろう。そのうえ自ら進んで同棲するとは、予想もつかなかった。






二人きりの時に見せる笑顔が好きで、同棲しだしてからは進んで彼女を連れ出そう

ともしていなかった。精神的ストレスで前の職場を辞めた彼女は、まえにもまして人が多い場所を怖がっていた。そんな彼女の反応に甘え、俺は儚の心の問題を解決しようとも考えていなかった…。その為、心の底から笑っていた場所を思い浮かべられずにいた。




今考えてみると、儚が本当に好きだった場所は、俺たちの家じゃないのか…?

俺の家に彼女が越してくるという形だったが、思いのほか気に入って貰えたようで、安心して眠っている姿に、一人癒されることも多かった。彼女はよく眠るので、二人でいる時も寝ていることがたびたびある。その癖、においや気配に敏感で、俺が動いたりするとすぐさま反応した。



まだ同棲しだす前に、以前に付き合っていた女性がよりを戻したいとやってきた事があった。男と別れたばかりだとかで、新しい金づるが欲しかったのだろう。


やけに体を密着させ、儚との待ち合わせぎりぎりまで粘られた。

最終的には、あまりのしつこさに嫌気がさして、タクシーを使って適当にまいたが会社まで来るような非常識な人間だとは思いもしなかった。

儚と出逢うまでは軽く、大人の関係しかしてこなかった俺からしたら、随分な選択ミスだったと後悔した。



やっと儚と逢えたと安心した途端、彼女は眉をひそめ、機嫌が悪くなったのには空恐ろしいものを感じた。

そこまできつい香水をつけている訳ではない、元彼女の香りにすぐさま気がついたのだ。しかも乗ったタクシーの運転手は、ヘビースモーカーらしく煙草の匂いがすごかった。それにも拘らずかすかな香水を嗅ぎ分けた儚に苦笑するとともに、このと一緒にいたいと感じている限り、絶対に浮気などできないと確信したほどだ。


「……そうだ」


俺は、儚の事を大切に感じている。

彼女を逃したら、次は無いだろうというほど溺れている。彼女は10歳近く若いのだから、その気になりさえすれば新しい相手などいくらでも見つかるだろう。

しかし、儚を幸せにするのは俺がいい。誰にも譲りたくない。



―――絶対に見つけなければ。


決意も新たに、俺は走るスピードを上げた。




タクシー内での喫煙の描写が出てきますが、これは数年前の設定という事なので生温かい目で見てやって下さい。

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