22.二世も三世も
都々逸「二世も三世も添おうと言わぬ この世で添えさえすればいい」詠み人しらず
かつきに会社でのことを洗いざらい喋ったけれど、本当はまだ言ってないことがあった。会社を辞めて、彼との同棲を始めた頃に嫌がらせ電話がかかってくるようになったのだ。
大抵は無言電話で、何が目的なのか分からなかった。
けれど、会社を辞めても嫌がらせを受けるということは、きっとかつきとのことを快く思っていない人の仕業だろう。
その証拠に、決まって彼が居ない時間帯を狙って電話がかかってくるのだ。
卑劣なやり方だとは思ったけれど、私に取ったら好都合だった。かつきに、こんなことをされていると知られたくなかったのだ。唯でさえ不安定な状態だという事で心配されているのに、これ以上迷惑をかけるのは嫌だった。
しばらく経つと、郵便受けに脅迫めいた手紙が届くようになった。
宛名はなく、切手も貼っていないことから、直接ポストに投函されている事は確かだ。
それも昼間を狙って置かれていたので、彼に見つかることはなく処分していた。
本当はあの段階で彼に相談するなり、警察に頼るなりすれば良かったのだ。
……それなのに、あのときの私はこの嫌がらせを一人堪えることで、今まで甘えてばかりいた状況から抜け出せるのだと信じて疑っていなかった。
―――そんな買い被りが災いしたのだろう。
ある日、一人で買い物に出ていた時に見ず知らずの男の人に、いきなり突き飛ばされた。その時は大した怪我もなく、買ったばかりだったペアのマグカップが割れたくらいだ。しかし、もう少しで私は階段から転げ落ちる所だった。
周囲にいた人たちは、私が蹴躓いただけだと思ったのだろう。まるで何もなかったかのように通り過ぎていく。
唐突に怖くて仕方なくなった。
これまで、嫌がらせをされるほど誰かにとって煩わしい存在なのかと落ち込んではいたけれど、階段から落ちたら怪我どころでは済まないはずだ。―――私は、殺したいほど憎まれているの?
悲しくて、苦しかった。
近くにいた人も、誰も私の心配などしていない。この世で誰一人、私の事など必要としていないようで、怖くてたまらなかった。
恐怖に駆られた私は、とりあえずどこかに逃げたくて走り出そうとした。
でも、そんな私の手に割れたマグカップが触れた事で、何時も見守ってくれる彼の存在を思い出した。
「……かつき」
そうだ。まだ、ここには私が存在することを望んでくれる人がいる。
誰に認められなくても、彼は私を心配し必要としてくれる。だから彼だけは信じ、大切にしようと決めたのに…。また私は、頑張り方を間違ってしまったようだ。
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買い物帰りの私たちの後ろから、女の人が奇声をあげながら襲いかかってきた。
その人の手にはナイフが握られていたのだけれど、とっさの事に避けようだなどと考えが浮かばなかった。気がつけば私はかつきの腕の中に抱き込まれており、彼の背中には深々と鋭利な『何か』が刺さっていた。
ぬるりとした感触に、手にべったりと付着したものが血だと理解したのは、周囲の人が何事かを騒ぎ出した時だった。
なに…?何が起きているの……。
この血は誰のモノ?
かつきは何故、私を抱きしめながら気を失っているの?
ずるずると、かつきが倒れるのに合わせて私もしゃがみこむ。
呆然と彼を抱きしめていた私の耳にサイレンが聞こえてきて、無理やり引き離そうとされたので、必死に抵抗した。
いやだ…。この手を放したら、もう二度と彼に逢えないかもしれないと漠然と不安に感じた。
彼の顔がこわかった。どんなにきつく抱きしめていても血の気が引いてきて、顔は青ざめ、どんどん体が冷たくなっていく気がする。
「だれか!たすけてぇ!!」
そう叫びながら、彼から引き離されそうになった私は抵抗していたのだから、救急隊員の人はどう手をつければいいのか分からない様子だった。
普通に考えれば、かつきを彼らに任せれば一番いいのは分かるのだけれど、白い服を着た救急隊員は、まるで彼を迎えにきた白い翼の生えた死神のように思えたのだ。
「―――はかな、だっ…いじょうぶ、だって」
私の様子に見かねたのか、かつきは突然眼を開けるとそう言って笑ってくれた。
笑える状況じゃないはずなのに、余りにもきれいに笑った彼の表情におもわず力が抜けて、そのあとは救急隊員の指示を素直に聞くことが出来た。
病院に着いてからは、ひたすら彼が助かる事を神に祈っていた。
神様なんて、普段はあまり頼った事もない。両親をこんなにも早く奪った神様を、信じるのが辛かったのだ。―――どうして神様が居るのならば、私をこんなにも苦しめ、大切な人々を奪うのだろう…。また私は、ようやく見つけた大切な人を失ってしまうのだろうか?
かつき、かつき、かつき、かつき
お願い、神様でもなんでもいいから、どうか彼を助けて。
私から彼を奪わないで―――。
ちょっと、卑屈な表現が入りました。
不快に感じた方がいらっしゃったら、ごめんなさい。
錯乱している時なら、これくらい思ってしまいそうだなーっと考えまして。
此処まで読んでいただき、ありがとうございました。
少しパソコンの調子が悪く、遅くなって申し訳ないです。




