2.兆し
―――同棲しだしてからも。
儚はいつも、何かに怯えているようだった。何故そう思ったのかはわからない。ただ、何かに怯えていることだけは感じ取れた。
確かなのはそんな儚に気付きながら、俺は何もしなかったということだけだ。
いや…出来なかったというべきか。
前に一度、夜中に目が覚めて水を飲もうとリビングへ行くと、小さな音が流れているのに気づいた。よくよく耳を澄ますと、それは聞いたことのある曲だった。
俺と儚は、彼女が一人になる時間も必要だろうと別々に休んでいるため、彼女が起きているのかと、気軽に思っていた。一度、とある理由で彼女が倒れてから…なるべく負担をかけないようにと考えた結果だ。
部屋のなかをのぞくと、予想通り彼女がいた。だが、暗闇のなかで儚が毛布にくるまって震えているのが見える。
この寒い中、暖房もつけずにいるのだから当たり前だ。しかし、暗闇の中で歌を口ずさむその姿に、どこか俺は違和感をおぼえ儚にそっと近づいた。
「儚……?」
声をかけると、びくりと身体を震わせた。
その様に、先程感じた思いは間違っていなかったのだと確信を深める。やっぱり、おかしい…声をかけたのにも関わらず、なにも答えない。
「…儚?眠れないのか?」
恐る恐るといった様子で、俺は儚の横に座った。
こんなことは正直初めてで、戸惑っていたのだ。何か眠れなくなるようなことがあったのだろうか…。
顔をそっとのぞき見て、彼女の顔に光るものを見つけ驚いた。どうして泣いているのか理由もわからないまま、思わず儚のことを抱きしめた。
しかし、そんな俺の行動に彼女はまた一瞬大きく震える。
「いっ…いや!!」
儚は弱弱しく抵抗したが、そんな事も気にせずに俺は儚を抱きしめ続けた。
こんな風に拒絶されるのは初めてで、どうして…そして何におびえているのか考える余裕もないまま、彼女を放す事は出来なかった。
けれどその晩、最後まで儚の身体から緊張がとけることは無かった…。




