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18.いやなお客の親切よりも

初っ端から、過激な表現失礼します。

少しでも、かつきが儚に溺れている様子が出ればいいなーと思っております。



儚に話を聞いた途端…

初めて人を殺したいと思った。






俺が話をしようと言いだしたのだが、儚がそれを語り出したのは突然だった。

本当だったらコーヒーでも飲みながらゆっくり話を聞こうと考えていたが、俺が頭を拭きながら椅子に座った途端、彼女はせきを切ったように話しだしたのだ。話している最中の彼女は、何とか言葉を振り絞っているようで、座っている俺の前で儚は立っているという、不自然な体勢ながら黙って見守っていた。




彼女の先輩だった晋川という女に、俺は聞きおぼえがあった。

確か大学時代の同級生にそんな名前の奴がいたはずだ。正直、たいして親しかったわけでもないので、何故そんな事を儚に吹き込んだのか不思議でしょうがない。



―――もしかしたら儚のことのほかに、俺へ対し個人的な恨みの様なものがあるのだろうか?


儚の話を聞く限り、今までは庇うようなことを言っていたのにもかかわらず、突然敵意をむき出しにするなんておかしいと誰でも感じるだろう。その上、俺のことを恋人と呼ぶのなんて、頭がおかしいとしか思えない。



もちろん、儚にも多少の問題や確執はあったのだろう。

一人の仕事が滞ることで、多くの人間に支障が出る。それは、社会で働く身として痛いほど理解できる。


けれど、それを上回るほどの嫌がらせを儚は一年近く耐えてきたのだ。

仕事が遅かったり、出来ないのなら教えればいいのだ。幼稚としか言えない対応に噂話。社会に出てまでこんな嫌がらせをする人間がいるとは思った事もなかった。これは、仕事についてのいざこざの範疇を超えている。明らかにいじめだろう。

…だが何よりも、そんな状態に気付くことが出来なかった俺自身に、苛立ちが隠せない。


儚の人間関係を把握しているとは言い難いが、一番近くにいたのは俺で間違いないだろう。だからこそ、俺が助けてやるしかなかったのに…。





儚は一人でずっと堪えてきたのだろう。話ながら小刻みに震えていた…。思わず、立ち尽くしていた儚を抱きしめたが、いつかの夜のように、硬くなったままの体が悲しかった。

寒さのせいもあるのだろうが、それが俺に『まだ心を許していない』という証明のようで胸が痛む。こんなにも彼女を孤独にしたのには、俺の責任が強いだろう。


男女の交際に慣れていなかった頃の儚は、確かに緊張で堅いイメージがあった。

―――しかし今の彼女は、壁を作っているが故に近くにいても遠く感じる。

せめて、彼女が倒れた時にこうして話を聞くことが出来ていたら…今とは違う状況だったのかと考えると、悔やんでも悔やみきれない。



儚は、まるで自分がすべて悪いというように話していたけれど、それは若いが故の盲目的な思いこみだろう。欲目が入っているのは分かるが、彼女は本当に頑張っていた。努力すれば必ず結果がついてくるだなんて、俺には言えやしないけれど…。

彼女はもう少し認められても、報われてもよかったはずだと思うのだ。

それに、弱っているところに俺との関係をほのめかされたとあっては、まいってしまうのも疑ってしまうのもしょうがない。

俺だって「儚に昔の男がいたと」嘘でも言われてしまえば嫉妬しだろう。


だからこそ……そんな彼女を追い詰めた社員も、晋川という女も許せない。思わず憎しみが込み上げてくるが、彼女にそれを言ってしまえば余計に追い詰めてしまいそうなため、必死に表面に出さないようにした。




まだ儚は全てを話している訳ではないだろうと感じたが、それ以上聞き出すことはとても出来そうにない。

…焦ってもいいことはないだろう。今日はやっと少し彼女を知る事が出来たのだ。

これまで聞いてあげることの出来なかった話や我が儘を、辛抱強く聞いて行こうと心に決め、その日俺は彼女を抱きしめながら眠った。





都々逸『いやなお客の親切よりも 好いたお方の無理がよい』(詠み人知らず)


俺には君しかいないんだよ

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