17.真実と懺悔2
ようやく真実(ってほどの事でもない?)が書けました。
過去と未来が入り混じって、多少読みにくい(上、長いです)かもしれませんが、お付き合い下さるとうれしいです。
無視されるようになったその週の金曜日。私は一人残業していた。
今までから比べると、明らかに任される仕事の量が増えていた。その中には、他の社員が任された仕事も交じっており、今までの経験で出来る幅を超えていた。
だから質問を何度もするのだけれど「過去の資料を見れば分かるなどと」言われてしまい。
ただでさえ悪い効率がさらに酷くなり、なかなか進まず毎日残業していた。
私の課は、残業する人が少ないためほとんど一人で仕事している形だった。唯一の救いは、みんな仕事でどうしても必要な部分は会話してくれるところだ。
一週間見ていて気付いたのは、今まで噂などを気にしていなかった人まで私を無視していることだ。もとより、お荷物といった感じが抜けなかった私だが、ここまで冷たい対応されるのは初めてだ。
女性社員とすれ違いざまに嫌味を言われ睨まれるのは当たり前だったが、足を引っ掛けられたり、仕事を邪魔されるなどされるのは初めてだったので、驚いた。
ただ「あれをしたからこんな対応をされているのだ」確信が持てず、私はもやもやしている気持ちのまま仕事をしていた。
仕事が遅いのも、まぬけなのも私の責任なのだから、しょうがないとは思うのだけれどもし何か間違いを犯しているのなら、悪いところを直したい。けれど、親切に間違いを指摘してくれる人を私は失ってしまっていた。
「―――給料泥棒って、あなたの様な人のことを言うのね」
唐突に、晋川先輩が部屋に入ってきてそう言った。「仕事は碌に出来ない癖に、男へ媚びるのだけは一人前なんて、本当にいやな女と」その後も続けられたが、私は思考が凍ってしまい何も言うことが出来ず、ただただその言葉を聞くことしかできなかった。
彼女に忌々しい、汚い物を見るような目を向けられたのは初めてだったし、こんな悪意に満ちた言葉を吐き捨てられるのも初めてだった。
「あなた、私たちには最上暁と付き合っていないって言いながら、実は関係持っていたんでしょ?それを聞いた時は本当にびっくりよ」
思わず出てきたかつきの名に、やはり彼との事がきっかけだったのかと納得する。しかし、続けられた言葉にさらなる衝撃を受けた。
「まさか彼が、私の後輩へ手を出すなんて思わなかったし。あなたみたいなどんくさい娘を選ぶとも思わなかったもの。
―――ねぇ。分かっていないようだから言っておくけど、彼と私付き合っているの。
あなたで遊びだした時は、ちょうど喧嘩しちゃって珍しい子をつまみ食いしたく
なったのね。そのことは本当に可哀想だと思うけれど…お願いだから彼を返してよ。ずっと私、彼のこと好きだったの」
彼女が部屋から出た時、頭の中が真っ白になって何も音が聞こえなくなった。
✾ ✾ ✾ ✾ ✾ ✾ ✾ ✾
かつきに恋人がいる…?
いや違う、そんな筈はない。彼は私が裏切られるのを恐れている事を知っているし、もしそんなことがあれば、最初っから言うはずだ。
たとえ遊びであっても、本気であっても彼はそういう人だ。むやみに人を傷付けることを嫌うし、それ以前に人を近づけることも嫌がるのだ。
だから軽はずみな気持ちで今のように、私生活を無視してまで私を気遣ってくれるわけがないのだ。それに、ちょっと情けないが「面倒なことはきらいだと」いうのが、彼の口癖なのだ。
性格、態度のどちらから考えても、晋川先輩が言うような『遊び』だとは、思えなかった。遊びなれた人間からしたら、私なんてとても面倒なタイプだろう。
―――でも、もしそれが同情からくるものだったら?
妹のように扱われた事もあるし、私の境遇を気遣われている事も知っている。普通の恋人よりも、少し過保護に扱われているのも本当は知っているのだ。
かつきは、私の脈絡のない無駄話も聞いてくれたし、美味しいもの食べさせ綺麗なものを見せ、様々なことを経験させてくれた。こんなに甘やかされていいのだろうかと思えるほど、彼は常に優しかった。
男性経験が全くない私にあきれることなく、辛抱強く付き合ってくれたし。不安なときは、深夜でも電話に付き合ってくれた。
今考えれば、かつきにどれだけ甘えていたのかが分かる。晋川先輩は勿論のこと、私はかつきにすら甘え過ぎていたのだ。彼に恋人がいるかもしれないという事よりも、かつきの事を信じきれない自分と、甘え過ぎていた事実に愕然とした。
それからの日々は、酷いものだった。
任される仕事はさらに増え、晋川先輩とは目を合わせることすら怖くなった。
そんな私たちの態度に気付いたのだろう。
いつからか、上司からもないがしろにされるようになった。晋川先輩は、私の課では何かと重要な位置に立たされることが多く、ささいなことでもすぐ頼りにされていた。
そんな彼女を怒らせたとなっては、私がここで仕事をするのはかなり難しい。
こんな環境の中でも、私の出来るところまでは頑張ろうと1年はこらえた。
私の私生活のことで仕事を投げ出すのは嫌だったし、何より生活のために働かない
訳にはいかない。少し、違う仕事に就こうかと考えたことはあったが、今の私ではどの仕事も難しかった。
資格もなく経験もない。昔から興味のある資格を取ろうと頑張ってはいたのだが、それが報われる前に私は倒れ、医者からの診断で仕事を続けるのが困難になってしまった。
病院に運ばれた時、私はもう限界だったのだろう。
仕事という苦しみから解放されたと思うより、最後まで頑張る事が出来なかった事にショックを受け、しばらく放心してしまった。
かつきが駆けつけてくれたと知っても、有難いとも申し訳ないとも思えなかった。
―――こんなに優しい彼も、もしかしたら私を裏切っているのかもしれない。
そう考えてしまったのだ。
もし他の人と付き合っていなくても、彼は先輩にそう思われてもしょうがない行動をしたことがあるのではないか。そんな事を考え出すと、彼のことを信用することすら怖くなってしまった。
✾ ✾ ✾ ✾ ✾ ✾ ✾ ✾
今まで一度も言ったことのなかった本音が、口からこぼれだしていた。
かつきがお風呂から出てすぐに、彼の目を見ずに私は隠していたことをすべて吐き出した。こんなの、唯の自己満足でしかないのは知っているけれど、別れの言葉を聞くかもしれないのが怖くて、私は必死に喋り続けた。
彼のことを疑っているのだと白状しているようで、悲しくてしょうがなかった。
尊敬していた先輩と、恋人の裏切りに怯えたのが、儚が倒れた本当の理由だと思います(作者なのにもかかわらず、断定せず)。
相談できる人もいず、独りでずっとこらえ続けていたのです。




