13.君の名を呼ぶ
人通りの多い街中で、俺は儚の腕をつかんだまま黙って立ち尽くしていた。
虚ろな瞳で俺をみつめる儚に、どんな言葉をかければいいのか分からず数分が経過した。
そろそろ寒くなってきたし、掴んでいる彼女の腕も普段のような温かみがない。
どれだけ儚は一人、寒空の下にいたのだろう…。白い肌が青白く見え、俺よりずいぶん冷えているようだった。
「―――儚。ここは寒いから、一回家に帰ろう?
儚は家、好きだろう?」
流石にこのままでは、風邪をひいてしまう。
話し合うにしても、一度家に帰って温まらなければまずいだろう。人ごみが苦手な儚のことだ。俺はそう言えばこれで彼女がすぐにうなずくと考えていた。…しかし予想に反して、儚は今にも泣き出しそうな顔をした。
「―――だって。かつきが…いないの。
はやく探さないと、かつきが遠くに行っちゃうよ」
そう、囁くような声で彼女は呟いた。
嗚呼、どうして俺は儚をこんなにも不安にさせてしまったんだろう。
自分の馬鹿さ加減に嫌気がさした。きっと倒れた時から…嫌、もしかしたらその前から、儚はずっとひとり深い闇で溺れていたんだろう。
あれだけ近くにいたのに、それに全く気付く事すら出来なかった。
「それにね…かつきが居ない家に、帰るのが恐いの」
そういうと、彼女は今までの様子が一変し、手で顔を覆って泣きだした。虚ろに見えていた顔が嘘のように崩れ、声を押し殺して泣く姿に胸が詰まる。気がつくと俺は、彼女を力いっぱい抱きしめていた。
こんなにもきつく弱弱しい様子の儚を抱きしめていたら、苦しいだろうということは分かっていても、腕の力を緩めることが出来なかった。
まるで、このまま彼女を自由にしてしまうと、二度と元には戻らなくなりそうで…怖くて怖くて堪らなかった。
「儚のことが…好きだよ」
いつもだったら滅多に口にしない事を言った。
照れからくる戸惑いで、普段気持ちを伝えようとしなかったのが悔やまれる。
―――儚が好きだよ。
大切だよ、傍にいたいよ、守りたいんだよ。
俺は大切なことを、今まで一度も伝えてこなかったのだ。
言葉を尽くしても伝わる事など高が知れているのに、言葉にしないでも分かってもらえるだなんて、思いこみでしかない。
ごめん儚。これからはちゃんと伝えるから、儚も思っている事を教えてよ…。
「儚、ねぇ儚。俺の声をちゃんと聞いて。
俺の事をちゃんと見てよ。儚のこと…愛してるんだよ。どこにも行かないで、ずっと一緒にいてよ」
俺は自分でも気付かないうちに、涙をこぼしていた。
昔に書いたものを手直ししているのですが、やけにこの作品は主人公の名前を多用しすぎている気がしてしょうがありません。
目にうるさくならないように気を付けますので、もう少々お付き合いください。




