11.心の隅に発見する
おかしい…。書き始めた当初、私の頭の中で儚はその名前に合うくらい、ふわふわしたイメージの女の子だったのに、ただのマイナス思考まっしぐらの子になりつつある気がします(泣)。
その日、私は珍しく仕事が立て込んで残業で帰るのが遅くなっていた。
会社から出た時、ふといつもの公園に目を向けると、かつきがベンチに座っているのが見えた。当時、かつきと出会ってから一年ほどたっており、私は彼と話す時間を楽しみだしていた。
勿論まだ、一線引いて接するようにはしていたが、年上の友人が出来たようで嬉しかった。
仕事の覚えが悪い私は、かつきのことを差し引いても先輩方にうとまれていた。
一番仲良くしてくれるのは、新人の時に面倒を見てくれた晋川先輩で、あの頃と変わらずに優しく、けれどキチンと教育してくれている。
私は彼女を今でも目標としていた。
本当は二年目ともなれば、一人で色々さばかなければいけないのに、未だに高卒だから、若いからといった理由で上司に許してもらっている部分がある私が気に入らないという思いも先輩方にはあるのだろう。
確かにそうだ。私だって、若いだけで目に見えて差別されたら嫌だ。だから、少しでも仕事に慣れようと頑張っているのだが、頑張りが空回りしていることのほうが多い。不器用だということは理由にならないのに、どこかで周囲に甘えてしまっている自分が嫌でたまらなかった。だからこそ余計に、かつきを受け入れ始めている自分にすら苛立ちが隠せない。
今だって、かつきの姿をみつけてほんの少し喜んだのだ。仕事と私的な人間関係を同じ土俵で考えるのは間違っていると思う。それでも、ただでさえ臆病で不器用な私が、こんなに人間関係に影響が出ていて、普段通りに出来るわけがないのだ。
『逢えると嬉しいけど、会いたくない』
それが私の本心だった。いや、本心だと思いこもうと考えていた。
―――そんな考えに囚われ立ったまま考え込む私の目の端で、かつきの体がグラリと傾くのが分かった。
一瞬にして頭が冷えた。
それが会社の前だという事も忘れ、私は救急車を呼んで病院に着いてからもずっとかつきに付き添っていた。
彼の名前のほかに、何かを必死に叫んでいた気がするけどよく覚えていない。あの時は、ひたすら彼を失うという恐怖に覆われてまともな判断が出来ていなかった。
また、身近な人を失うなんて耐えられなかった。
両親を失ったのも一瞬で、唯々悲しみと孤独感に包まれた感じを、今でもはっきり思い浮かべる事が出来る。このように、両親の事を過去形で語れるのがかつきのお陰なのだと心のどこかで気づいていた。彼に、異性として惹かれているなんて認めたくなくて、これ以上踏み込まれたくなくて必死だった。
……だって、失うのは一瞬なのだ。
家族でさえいなくなったのに、どうして出逢ったばかりの赤の他人が傍にいてくれるだなんて自惚れられるだろう。
―――信じていないのかと聞かれたら、私は何も答えられない。
ただ、かつきや他の人を信じていないというよりも、自分にそれだけの魅力があると信じる事が出来ないのだ。努力をする気持ちも歩み寄る気持ちもあるけれど、ずっと一緒にいたら、何時かとんでもないドジをおかしたり、様々なことに対する不安から辛く当たるかもしれない。
彼らの問題ではない。私が、わたし自身がこわいのだ…。
今度悲しみや苦しみにのみこまれたら、自分を見失ってしまうのではないかと怖くてたまらなかった。エゴだと言われようと、私は好きな人たちを傷つけるのが怖くてたまらない臆病ものだ。
かつきが倒れなければ、そんな事にも気付けない自分が情けなくて、私は彼が目を覚ますまで、病院のロビーでずっと泣いていた。
自覚なんてしたくなかった。
出来たら、このまま友達として傍にいたかった。
それなのに、意気地がない私に、神様は業を煮やしたのですか?
今更彼を失うくらいなら、ずっと一人でいた方がましだったのに…




