戦争しましょ、そうしましょ
戦争への助力、てか主力になれと頼まれてしまった。
この世界での戦争は属人性が高い。当然各国どうにかできないかと考えてはいる。その辺のお悩みをつついて要求を通させて貰おうと目論んでいたのだが
「既に攻撃を受けている。敵は傲慢な帝国。周辺国も向こうに「助力」している。存亡の危機だ」
と言われてしまえばやむを得ない。先ずは戦争に勝つ。戦争は、勝つ以外ない。めんどっ。
前科があるのにまたしても報酬を先取りしてしまった俺の落ち度だからしゃーなし。
「このまま逃げますか?私は主様さえいれば他に何も要らないむしろ主様と私だけの世界なんて素晴らしいいえでも畏れ多いかも私ごときでは主様の偉大なる愛を受け止めきれな」
天界の女神達にしたような事は全くしてないのになー。一瞬だけ女神達を五感に再現しながら部下を使うというゲスの極みな発想をしたのだけど流石に可愛そうなのと、万一それすら喜ばれたらちょっと部下にし続けるのしんどいと思ったのでやめた。といって今更「報酬」の返品もできない。じゃあせめて役に立て。
「周辺国は大したことない。本気でもない。帝国へのアリバイ作り程度だろう。て事でお前に全て任せる。帝国からの出向組を最警戒。絶対に無理はするな。いのちだいじに」
「了解しました」
シリアスな命令にはちゃんと従うんだよな。多分こっちの期待以上の成果を出してくれるだろうし。
じゃあ俺も、報酬分くらいはやりますか。
島船(仮称)はこの国の交易の要であると同時に、戦時の移動要塞でもある。大規模攻撃用の魔道具も複数設置されている。じゃあ島船は強力な兵器を満載にしたつよつよの無敵戦艦なのかというと、そうとも言い切れない。大がかりな設置型の魔道具は携帯サイズのそれよりはずっと扱いやすく威力も出せる。が、結局は誰にでも扱えるという程のものでもなく運用は繊細で複雑。そして敵に奪われれば最悪、破壊されるだけでも涙目不可避。
大国を牽制できている示威効果だけでも十分、と言えるのは向こうがやる気を出すまでの間で、今はむしろ格好の目標となっている。大国の精鋭が集う地獄の一丁目。
或いは、垂涎の狩場。
今の俺は一回数十キロ程度まで瞬間移動できるようになっている。当然クールタイム、使用制限なし、なので一回何キロにあまり意味はないのだが連続発動は気持ち的にめんどいってのは変わらないからね。回数少なくて済むのに越したことはない。
というわけで数百キロをほぼ瞬間で移動し、島船を占領せんと集結した精鋭部隊の前に姿を現す。動揺は一瞬だけ。相当練度の高い相手。
「この国にこれ程の使い手が居たとは。いや、少し前に噂を聞いたな。恐るべき腕を持つ流れ者。それがあなたか。雇われなら、こちらに寝返らないか?相応の待遇を約束する」
部隊指揮官はどうせ呑まないと分かってる無駄話を無意味にべらべらしてる、わけがない。拡声スキルを使い全体に状況共有、そしておそらく同時に俺には分からないサインを出して指揮を取っている。まあ俺のやる事は変わらない。とりあえず呑めない要求返しから入るか。
「投降してくれないか。全員の命は保証する」
「申し出感謝するが、出来ない」
断られたとほぼ同時に指揮官が眼前に出現した。俺の移動スキルほどではないが、この近距離、脳の反応速度を考えれば効果は殆ど同じだ。
まあ予想はしてたので自動でカウンターチートを多重にぶち込んで指揮官を拘束した。
指揮官を取られても士気は下がらない。高度な連携、なんだろう、俺以外には。
瞬間移動しながら強者から順に拘束していく。
やってる事は非常にシンプルだが、大量の強者を殺さずに拘束し続けるのは結構リソースを喰う。転生したてだったら破綻してたかもしれない。
天界での二年半は無駄じゃなかった。まあ能力向上抜きでも素晴らしい日々で……。
凄まじい速度で地中から飛び出した殺意の腕。得物は禍々しい文様の描かれた短刀。明らかに魔道具だ。その刃が俺の首を完全に捕えた。
即座に拘束しこれも無力化。完全に首を裂かれる所を自動防御し、微かな傷も自然治癒により一瞬で塞がったが、微かでも傷が付いたのは事実。念のため更に治療、解毒、解呪、その他諸々重ね掛け。いつまでも平然としている俺をみて刺客は目を見開いている。やっぱり毒か呪いか両方か。悪いけど性格的に自己保身が一番得意なんだ。
彼が切り札だったらしい。捕えて、未だ残る者達の士気が明らかに低下したのを感じる。
好機か。好機であれ。そろそろしんどい、めんどい、もう帰って寝たい。
改めて指揮官に話しかける。拡声スキルを使って。
「最後だ。投降してくれないか」
「……了解した。あなたのご厚意に感謝する。全部隊、降伏せよ!」
良かったー。殺さないというのはとってもとっても面倒だ。何度ばーんどかーん大爆発で全滅させちゃおうと思ったか分からない。良く統率の取れた部隊で指揮官も賢明で本当に助かった。
部下も部下で相当の戦果を挙げていた。張り切り過ぎな位で逆に周辺国を逆撫でしないかなーという気もするけど、まあその辺悩むのは国王であって俺じゃない。なでなでして―モンスターと化してたので適当に撫でておいた。
軍事の属人性が高い世界で大量の精鋭を捕虜にしたのは非常に大きなカードだ。これを無駄にするアホならもう全力で帝国に寝返る所だが、流石というべきか、国力差を越えて五分以上の終戦を勝ち取ったようだ。やりおる。
終戦の調印式。最後まで油断はできない。ので面倒嫌いの俺も国王の申し出を素直に受けて同席した。軍事の属人性。つまり、両国の国王こそリーサルウェポンって事だ。だから脅迫した。(おとなしくサインしろー、しないと怖いぞー)って感じのオーラを放つイメージでチートを発動。うん、ちゃんと伝わったようだ。特に敵国側の皆様にあった未だに納得いってない感覚が、諦めに変わった。まあ、これで何とかサインはしてくれるだろう。その先に続く平和まで保証されたわけじゃないとしても。
地下基地ではこの国式らしい派手な宴会が開かれていた。それを背景に、上機嫌の国王が言う。
「さて、あなたからこの国への要求は。英雄よ、遠慮は無用だ」
「えー、うーむ……」
何でも通りそうだとかえって迷うなー。まあ当初の予定通りで良いか。
「貴国の教育機関、あ、軍事学校を含みます。それらを見学の後、教育者……いえ、その候補者で構いません。何名かスカウトさせて頂けないか」
「ふむ。目的は」
「行きがかり上このような事に関わってしまいましたが、本来、私の最終目標は「未踏の地」の攻略です。私ひとりでは難しい。そして経験上、単に実力者であるというだけでは私は信用しない。疑り深い性質でして。有望な者を自ら育て私のパーティに加えるために、まずは優秀な教育者を求めています」
「……随分慎重だな。ははは、勿論、構わない。見合う者は何人でも持って行ってくれ。各機関へはこちらから通達しておく」
「……感謝します」
「こちらこそ。ありがとうございます。総員、救国の英雄に杯を捧げよ!」
やめてー。そういうのいいからー。
要求はともかく理由は嘘9割。未踏の地、てのはこの国に来てから耳にした。いや最初の国の図書館でも説明があったようななかったようなぼんやりした記憶があるようなないような。ともかく何か凄いヤバい地域らしい。つまり俺の目的の手がかりの一つであり、そのうち行く予定なのは本当だ。でも単独で十分。パーティは邪魔でしかない。但し、有望な者には興味がある。まっとうな教育ではない。支援チートというか、それ以上の効果を試す実験素材として。でもいきなり直に優秀な若者に手を伸ばすのは、この状況では断れないっつっても相手も微妙に違いない。嫌な気にさせれば恨みが残り邪魔される可能性が増える。まあ既に部下を貰っといて今更な配慮という気もするし、どんなに慎重に進めようと監視位は当然されるだろうけど。
教育者か。前世じゃ最も醜悪な生き物の一種だったけど、この世界では果たして。




