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堕ちて拾って走って叩いて

堕ちた俺は壁で止まった。ぺしゃんこにはならないのに急停止する不思議体験。空間を掘るように少しずつ進んでみる。最初は未知の感覚を楽しんでいたけど、あまりに時間がかかる事に気付いてすぐ萎えた。結局帰りも移動チート頼り。壁を抜けるまでがめんどい。でも上がった時よりは大分マシか?二年半経っても、あの時の苦しさは覚えている。比べれば明らかに楽になった。他のチートを併用する余裕もいくらでもある。女神達の晴れやかで煌びやかで艶やかな姿を網膜と鼓膜で再生、否もはや完全再現。ぐひひうへへと気持ち悪い笑みを浮かべながら移動チートを繰り返す。めんどいだけでしんどくはない。ずっと苦手だと思っていたがこうして多用してるし、案外移動チートが一番得意まであるかもしれない。性格との整合性も「どこか」へ行きたいとはずっと思っていたから、まあ一応取れる。実際転生して、天界にまで行ってようやく「どこか」を見つけたわけだし。


目的は出来た。では手段は?地上でダンジョンを壊し尽くし、人間を殺し尽くす?チートは成長するだろう。でも、相変わらずのフィーリング打法だが何か違う、それでは到達できない、という感覚がある。

じゃあ後は、ありがちなのは世界を救うとかそういうのか。でも今の所、例えば魔王がいるとかなんとかいう話は聞かない。魔界はあるっぽいけど。天界でもふわふわな知識しかなかった。まあ女神達が嘘を付いているという可能性もあるが、いやない、そんな娘達じゃない、俺が守らなきゃ……。

完全に金的搾取(ダブルミーニング)され思考になりながら地上に降りた最低の屑。


……この世界を救う、つってもなー。


1.5キロほど先の地下室に瞬間移動。狭い。不可抗力で密着する。そっちが監視してきたんだから流石にセクハラ扱いは許して欲しい。


「ひぇっ」

「ずっと俺を監視し続けてたって事は流石に無いと思うけど、早かったね」

「ぁ、はい。あなたが消えた後も警戒は続けるように言われていました。んっ、早かったのは通常業務と被ったからです。この港は出入りが多いので」

「そこにのんきな俺が飛び込んできたってわけか」


ビビられてはいるが、敵意は感じない。思えば最初の時もそうだったな。この敵意の無さが監視能力に活きているのかもしれない。ふむ。


天界での経験(意味深)により出来るようになったスキルを試してみる。盗み見。変な意味じゃなくこの人の記憶からステータスやスキルを……いや十分アウトか。開き直って確認すれば、完全に感知と監視と隠蔽に特化してる。特化してる部分はマジでヤバい。明確な数値化までできるわけじゃないんだが、多分、転生直後の俺とほぼ同等。もしかしたらそれ以上。凄く有能だ。まあアホな俺にはパッと活用法も思い浮かばないけど、そこは本人に考えて貰えばいいか。


「うちの子にならない?それとも国王に忠誠誓ってる?」

「ふぇ!?な、なります!王は忠臣を嫌いますし。……私としては小さい頃からの夢でこの方しかいないと決めた唯一絶対の主様に身も心もお捧げして誠心誠意お仕えする事こそがこの身の使命であると」


自分語りはスルーして「王は忠臣を嫌う」について考える。権力者も色々だなー。どこも苦労してそうなのは何となく分かった。


「国王ってどこにいるの」

「僻地の地下基地です」


おくちふわっふわ。まあこの人的にはもう俺が主君なのか。勢いと天界での経験によって気が大きくなってつい勧誘してしまったが、部下を持つと面倒が増えるよなー。まあ死なせちゃったらその時はその時だ。お墓くらいは作ってあげよう。

移動チートで一瞬で狭い地下室を抜け出し地上で待っていたら、一分くらいで追い付いてきた。かなり早い。侵入対策か地下室の通路は相当せまくて小柄なこの人じゃなきゃつっかえる位だったのに。この辺は才能というより鍛錬の賜物だろうな。特化してなくても油断ならない。この世界の上澄み人材の実力を確かめるってだけでも、部下にしたのは正解……か?


「僻地へ向かわれるなら私の事はお気になさらず主様の偉大なる御力で先行して下さい。速足で追わせて頂きます」


速足。心を覗くと、馬車と早馬の中間くらいの速度で走るスキル、らしい。勿論この人の場合は隠蔽を併用する。見よう見まねで試してみるか。色んなスキルを使うのも何かのきっかけになるかもしれない。まあそれは口実で、単純に興味が湧いたし移動スキルより走る方が好きなんだよな。前世なら考えられなかったけど今の身体は丈夫だし。天界で更に丈夫(意味深)になったし。


「いや、一緒に行こう。僻地はどっち?」

「っ!?……ぁ、すみません!あちらの方角です。……足手まといの私と一緒にだなどと試されているのでしょうかそれともああ一目見た時から分かっていました主様の偉大さをだからこそ私は」


ほっといて先行する。見よう見まねじゃなくイメージ頼りになったが、慌てて付いてくる様を確認するとまあ、同じように出来たっぽい。俺は大分速度を抑えているが、部下の走りも悪くはない。馬車と早馬の中間、ってのは基本知識としての情報だったようだ。明らかに早馬より速い。隠蔽の併用が完璧なのも強い。完璧と言いつつ俺には見えててアレだけど、逆に部下も俺を、姿は見えずとも気配を頼りにずっと追ってくる。素晴らしい感知能力だ。速度を少し上げて一時間ほど駆け抜けてみたが、部下は苦も無く等距離で付いて来た。うん、十分すぎる。よほどの面倒事でもなければ足手まといどころか丸投げしていい。あ、ダメか。俺の目的を考えたらアホみたいに何でも自分でやりたがるウザ上司にならないとか。うーん、やだなー。……そうだよ、人を使う、って事からも何かきっかけが掴めたりする可能性もあるのでは?どっちも試してみなければ、うんうん。


真面目に考えると、何故かあっさり寝返って忠誠を誓ってるちょっと怖い部下さんはともかく、敵側の上澄み人材に対してちょっと注意が必要な事が分かった。じゃあ対抗できる部下を揃える意味は、ある、かも?それもそれで面倒だけど……。


目的は出来ても根本の怠惰さは変わらないまま。まあこれが変わったら俺じゃないし。

というわけで僻地到着。


「はっ、はっ……」

「ちょっと速足が楽しくて最後の方飛ばし過ぎた。ごめんね」


謝りつつ部下の頭をぽんぽんと叩く。あ、やべ、天界の癖で馴れ馴れしくし過ぎた。と、


「ふぁ、ふぇっ、ぇ!?……ふぁぁ」


へたりこんだ。隠蔽を解いてないのでまあ叱る程じゃない、かなぁ……?


「ぁぁぁ、偉大なる主様、何という慈悲、なんという愛……やはりそうだった私は主様に出会い主様に全てを捧げ主様の一命にてこのちっぽけな身を費やすそのために生まれこれまでの研鑽は全て主様の道具となるための」


うーん。部下を持つのも楽じゃない。どちらかというとペットっぽいけど……。

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