めくるめく日々
「よーしよし、いいこいいこいいこー……。よーしよし、ここまで本当に頑張ったね、いいこいいこ、ちゃんと休めていいこいいこー」
目が覚めると後頭部が訳の分からない気持ち良さで信じがたい程の甘くて良い匂いで二つの生で一度も知らなかった絶対的安心感の温もりでそれはえげつないくらいの執着を催させるやわらかさでもあったのでした。
起きたけど寝たふりしよっと。気持ち良いんだもん。
「いいこいいこー。ふふ、可愛いね、ほんとにかわいー。寝たふりかわいっ、いいこいいこー。あなたの気が済むまで、いつまでだってこうしててあげるからねー。よしよしよーし……」
顔を真っ赤にしながら俺は離れようとするも、
「だめ、あなた、まだ満たされてないでしょっ。誰かの欲しいは皆の欲しい、それが天界のルールよ。だから、ぎゅーっ。ね?ふふ、おはよう。改めて天界へようこそ、あなたが初めてのお客様よ、大歓迎っ!」
「あ、と、おはようございます……」
「おはようっ」
一切逃がしてくれない。ド密着で「大歓迎」されて凄く恥ずかしい。でも嬉しい。なんなんだこれは異世界最高!天界最高!
今は天界の「朝」なのか?地平線まで広がる薄いピンク色の空は、十分に明るいのだが、でもうっすらピンク色だ。つまり、そういう雰囲気だ。なら仕方ない、俺を抱きしめ続ける在り得ない程の美女に目も心も奪われ続けても。
「あなたの欲望、面白いわ。どうしてそんな事がしたいの?興味があるから、後で一緒にしてくれる?あ、凄く抑えようとしてる。抑えなくていいのに。私に悪いって思ってるの?恥ずかしい?ああもう、ほんとに可愛いっ。でも、あなたの欲望を覗いていると、何故だか私もちょっぴり恥ずかしい気がする。あなたが恥じらい?を望んでいるからかしら」
心を覗いている事を隠そうともしない。ここまで堂々と覗かれると何だか心の露出狂になった気分でいっそ見てくれ!ってなる。
「ふふ、ごめんごめん。あなた人間だものね。私だけ覗いてるのはずるいよね。うーん、じゃあ、はいっ。これで、伝わるかしらっ」
伝わった彼女の心は、純白。色が見えるわけではないのだが。でも純白としか言えない。あまりの清らかさが眩しくて圧倒される。と、
「ふぇ、え?なんでそんな感想になるの?わ、私も業突く張りだよ?ほら見てよっ、昨日も食べ過ぎて皆に怒られたしっ」
心を見た俺の感想に急に慌て始めた。彼女の心中も「あわあわ」で一杯になっている。何だこれ可愛いな。
「別に食べ尽くしてるわけでもなし、いいじゃないですか。……可愛いですよ」
「あわわ、こんな所を可愛いなんて言わないでっ。……反撃されちゃったわね、ふふっ」
さすがは天界の女神(勝手に俺が呼んでるだけだがでも女神だろ。女神じゃない理由が無い)。すぐに落ち着いて余裕を取り戻したか。こちらはもう甘やかしの暴力で限界です。
「天界の事、気に入ってくれた?あ、私なんだ、あ、ありがとう……。もう、何でだろ、あなたの心、可愛いけど私をすぐ恥ずかしい気持ちにさせてくる……でも、もっと見たい……あなたから見て、私、そんなに魅力的?口でも言って欲しいな」
「可愛い。好き」
「っ、あなたも可愛いわよ。ほら、見て。私の心。天界に来てくれたあなたを見て、直ぐ、なんて可愛いんだろうって思ったの。私も、あなたが好きよ」
可愛い、と言われたのは初めてだ。言葉と共に彼女の記憶……俺が気を失ってから彼女が本当に、慈しんで介抱し続けてくれていた……が流れ込んで、それはとても暖かくて、とても嬉しいなって思いました。とてもエロいなとも思いました。
「可愛い、可愛いあなた。とっても可愛い……。だから、ね?もっと私に、あなたの望む事をさせて欲しいっ。私も良く分からないけど、でも、頑張るからっ!あなたの望む事は何でもしてあげたいの。っ、いやその、ほ、ほら、て、天界初のお客様にきちんとおもてなしをしないといけないし、うんうん。そういうわけだから、その……」
抵抗など出来るはずも、するはずもなかった。
ただでさえ(物理?的に)薄ピンクの空気が、更にピンク色になってゼロ距離の俺達は……。
「ちょっとー!いい加減にしなさい、ずるいわよ!」
「そうだそうだ、ずるいぞー」
「よっ、天界一の業突く張りっ!」
「私も人間さんと仲良くしたいよー」
美貌。美乳。美微乳美少女。美爆乳美女。美爆乳美少女。美微乳美女。エトセトラエトセトラエトセトラ……。
瞬く間に溢れんばかりの美の極致が俺を覆い尽くしていた。
二か月後。俺は天界から去ろうとしていた。目的は出来た。必ず帰ってくる。その為にも今は断腸の思いで旅立たねばならない。
「寂しくなるわね。この、ふたりの大事な娘は私が責任を持って育てるから……」
「変な言い方止めて下さい。出来ないっぽいって分かったじゃないですか」
天界の女神達は増えも減りもしない永命の種族だ。めちゃんこ羨ましい。
「確定じゃないしっ。それに、私達もあなたも望んでいるんだからその内出来るようになるわ。マナってそういうもの。ふふっ、とにかくこのお花は私がちゃんと面倒見るからねっ」
「あー、お兄ちゃん!もう行っちゃうの……?」
調子乗ってお兄ちゃん、なんて呼ばせるんじゃなかった。天界一の甘えたがりが潤んだ瞳で見つめてくる。やめろ!そんな瞳で見るな!決心が鈍、鈍……。
「こんなにこんなに大好きなのに。もっと一緒にいたいよ……お兄ちゃん」
異文化交流って大切だよね!
「へいへいへーい!楽しんでるー!?」
「うおー!最高だ、愛してるー!」
「やーん、嬉しい、えっと、投げキッスよぉーんっ。ん、ちゅぅんっ!」
アイドルをさせてみたり。前世でドルオタだったわけじゃないので足りない知識を無知な女神達に伝達して大分おかしくて拙い感じになってしまったが、それでいい、それがいい!
「こんなポーズで撮影なんて、恥ずかしいよぉ……っ。お兄ちゃんにいっつも恥ずかしい事、教えられちゃう……」
「無理強いはしない。やめようか」
「いじわるっ!私が嫌がってないって知ってて……お兄ちゃんの、ヘンタイ。でも、そんなところも好き……っ」
撮影という文化を持ち込んだり。基本的には健全な写真や動画が流行となったので問題はない。ちなみに女神様達は当然のように魔法使い、いや多分、その遥か高みのマナ扱いだったので全員が簡単に撮影も、その具現化も習得した。
そんな圧倒的美しさの上位存在達に
「ごめんなさいっ、こんなバカみたいに実らせてごめんなさいっ!今日もたっぷりお仕置きして下さいっっ!」
泣きながら謝罪しつつも期待をまるで隠せてない豊かさの暴力を謝らせたり。
「ふふ、ちっちゃく生まれて良かった。あん、そんなに好きなの、私……の胸。いいわよ、いくらでも甘えさせてあげる……っ」
誇り高くドヤりながらも肝心な所で弾ける恥じらいに甘えたり。
否、断じて否。決して欲望のままに好き放題してるだけじゃない。
稀には情報収集だってしてる。例えば、
「本当にうっすらとした知らなかったんですね。人間の事」
「ええ、魔族の事もね。情報の断片は時々ここまで浮かび上がってくるの。マナが伝えてくれる。でも、あなたが来てくれて分かった。私達が知るのは、あなたの事だけで良いって」
「っ……あの壁があるし、絶対とは言いませんが、まあ越えられる事もないでしょう」
「そうね。ただ、あれは私達が築いたものじゃないの。天界が生まれ、私達が生まれた時からずっと、あの壁も存在していた」
そうだったのか。
「うん。……壁の向こうを見てみたい、壁の向こうから誰かこないかなって、時々は思ってたの。まあ、皆仲良しだし、ここで生きる日々に不満があるわけでもなかったから、本当に、時々。それに今は、あの壁があって良かったって思ってる」
「何故」
「分かってるくせに。……あの壁のおかげで、私達があなたの「欲しい」に見合う存在として有れたから、よ。あなたが来てくれた時、何故かしら、心が震えた、って言うのかな。咄嗟に強がって余裕ぶって見せたでしょ。そんな風にしちゃう位、知らない、初めての気持ちに動揺してしまった。それから気を失ったあなたを介抱しながら、私、堪え切れずに泣いてた。あなたが無事な事は分かってたから、出会えた事への嬉し涙よ。信じられない位、嬉しかった。こんな気持ち、想像した事も無かったのに。今はこれがないなんて、あなたを想わない私なんて、絶対にありえない。あなたが天界に来てくれて、本当に……本当に良かった……。好きよ、あなたが好き、だーいすき……」
心を覗いて既に知っている気持ちも、甘い声で耳元に囁かれるとまた格別の趣がある。俺が教えたASMRは女神の声によって昇華され俺は無事昇天し……、絡まり、溺れ、貪り合う。
そんなこんなで更に二年半後。いい加減、ここから離れる時だ。彼女達に飽きたのではない。むしろ逆だ。だからこそ一旦地上に降りる。二年半、俺は楽しくて気持ちいい事しかしてないが、ステータスもスキルも大きく伸びた。今後もここで伸ばせるだろう。でも、相変わらずフィーリングだけだが、何か足りない気がする。ただステータスやスキルを伸ばすだけでは越えられない壁。二年半の間ずっと思う存分やりたい放題しても誰も妊娠しなかったし、俺が永命の種族になったという感じも全くない。彼女達も俺の不老不死願望をかなえるために本当にあらゆる手を尽くしてくれたが、ダメだった。めちゃくちゃ色んな意味で「元気」にはなったが、でも永命じゃない。
「お兄ちゃん、行くんだね……もう止めないよ。私もお兄ちゃんと永遠に一緒にいたいもん」
「ああ、必ずまた来るから」
「絶対だよ、約束だよ!ほんとに、来てくれなかったら大泣きするからねっ!」
「そうよ。……ずっと、ずっとずっと、いつまでだって待ってるからっ」
1706の瞳から流れ落ちる美しい涙が示す激重感情。彼女達を散々好き放題しておいて最低の屑だが、まだ彼女達の気持ちに応える覚悟も足りてない。地上に降りるのはそのせいでもある。その覚悟を得るため、永命の種族になるため、彼女達にふさわしい俺になるために。
名残惜しいけど、物凄く名残惜しい、屑でもいいじゃんこのままずっとやりたい放題し続ければいいじゃんという気持ちもめっっっっちゃあるけど、でも俺は飛んだ。地上に向けて堕ちていった。




