必要は再会の供
「ここがダンジョンかあ。まあ、地味というか……親のカネよりみた石の壁と床って感じだな。全体がほんのり明るいらしいけど、魔道具の灯りのせいで分からん……これはどうやって光ってるんだろ」
魔道具の内部構造はチートで覗けたものの、技術知識がないから結局仕組みはわからない。
「でも、へぇ。灯り一つならこんなに小さな魔石で良いのか。砂粒じゃん。異世界文明も中々やりおる」
ダンジョン入り口付近、多くの冒険者とすれ違う中でぶつぶつ呟き続ける。「違和感を感じさせない」ので問題ない、という事のテストも兼ねてあえて声を出している。このチートは使える。姿を消してばっかりだと逆に怪しまれるだろうし。
やりおる灯火が等間隔に設置されていよいよ真昼のように明るい。から殺風景さが強調されてる。情緒より魔物の姿を見やすい方が優先なのは分かるけども。
ダンジョン自体は酷く地味なので冒険者の姿だけが彩りだ。と思っていたが、ちょっと奥に進むともう誰にも会わなくなった。灯りはまだ設置されている。ここはまだ入り口、チュートリアルの範囲。それであれだけいた冒険者が既にばらけたんだから、ダンジョンって広いなー。このダンジョンはしょぼい方らしいのに、それでこの広さか。広くて地味。うーん……あとは魔物だけが頼りです……と。
大きい魔物が出てきた。消した。消したら魔石が出なかった。なるほど勿体無い事をした。以降は普通に殺して魔石を拾い集める。で、収納袋に入れる。マナの力で小銭入れサイズなのに驚きの収納力。但しこれは安物で、一定品質以下の魔石専用。他には通貨用の袋だけ買った。何でも入れられる収納もあるが値が張る。まあ収納チートで良いんだけど怪しまれないように、かつ、情緒を重視した。つまりわくわく魔道具を使って見たかっただけ。
収納袋が八分目くらいになった所で(安物なので容量表示は付いてない、チートで確認してる)クエスト達成にシフト。流石にぴかぴか魔道具(仮称)は見当たらない位の深さまで潜る。ダンジョン自体が放つ明るさが分かる。うん、ほんのりと目に優しくてこの方が好みだ。でも殺風景は変わらないので、目当ての魔物を見つけてさっさと始末した。荒らしすぎるよりは怠惰に思われる方がずっと面倒が少ないだろうという建前とめんどいという本音により受けたクエストは二つ。一つはダンジョンに入る冒険者は全員受注する「とにかく魔石よろ」って奴だから実質一つだけ。その分この町の冒険者には中々厳しい、と受付嬢から聞いた奴を選んだからそれで勘弁してほしい。なるほど、安物の袋には入らない。それだけ品質の良い魔石を出す大物だったという事だ。
ダンジョンで強力な魔物を間引く事には治安を保つ意味もある。冒険者が頑張ってダンジョン内の魔物を減らさないと外にも発生するようになっていく。弱い魔物はすぐそうなる。強力なものは猶予があるが、いずれは現れる。惨事は不可避。事前に回避。じゃあねお開き。
という事で帰ってきてギルドで報告と換金を済ませる。狙い通り、もうひと働きして貰えれば言う事ないけど文句は言えないわね、位の反応だった。カネ稼ぎは嫌いだが、これからやる仕事の後始末にはまとまったカネがいる。でもカネだけあってもな。どうすっかなー。
答えが見つからないまま人さらいを殺して行く。「商品」がある事は少ない。なるほど「在庫」には最悪だから速攻で捌くのが基本なのかー。とはいえたまには「倉庫」にも当たる。悪いけど良い案が浮かぶまでは自分で身の振り方考えて下さい。というわけで貧民街から上流向けの住宅地まで、隠蔽を常時発動しながら適当に感知し、見つけたら侵入チートからのさくさく殺害。貧民街も上流向けも大した違いが無い。多分一番栄えてるこの町でこれだから、この国の貧しさを感じる。仕事はやりやすいけど後始末は凄い面倒そうだな。もういいか、そこまで頼まれたわけじゃないしほったらかしでも。
主に「ビジネスマン」を、稀に「顧客」を、数十箇所で皆殺しにして宿に帰り、遅くなってもにこにこ迎えてくれる看板娘に財布の紐を緩められ御馳走を頬張り風呂浴びて寝る。
そんな生活を数日続けていたある日、ダンジョンの入り口付近、冒険者すれ違いゾーンで再会した。俺の方からは多分気付かなかったと思うが、向こうが明らかな異常反応を示したのでこっちも感知チートで確認してしまったのだ。「違和感を感じさせない」にも限度があるんだなー、学びを得た。ほんの少し俺のチートについて見えてきた気がする。高水準で大抵の事はできるが得意不得意はあり、その傾向が性格とかみ合う感じ。
焦って駆け寄るほどの間柄でも無い。向こうから近付くのを待つ。躊躇いながら観念したように歩み寄ってくる四人組。流石に失礼じゃない?別にいいけど。
「あー、冒険者になったの」
長生きしようねって言ったのに。まあいいか、こいつらの勝手だ。
「……他に当てもなかった。娼館で稼げる年でもないしね」
んな若ければいけたみたいな、と思ったけど昼光と変わらない明るさの下、小綺麗になったその顔は、老化と苦労と苦悩の跡さえなければ確かに、いけたかもねと思わせる。おばさん山賊に歴史あり。逆に言えば今は愛らしい看板娘ちゃんもいずれこうなるのか?諸行無常が過ぎるぞ。
ついでに今更こいつらが血の繋がった兄弟っぽい事にも気付いた。どうでもいい。
せっかく再会したなら情報をよこせ。
「何で青年がおう、貴族様だって分かった?」
訝しむおばさん。よっぽど世間知らずの質問らしい。ぐぬぬ、いいもんね、聞くは一時の恥。
「……。貴族は魔法使いだ。稀に才能の無い奴も生まれるけど必ず廃嫡、酷けりゃ内々に「処理」される。で、魔法使いだから軽装、そして単独あるいは少数で平然と行動する。確信したのはあいつの態度も込みだけどね」
なるほど。言われてみれば多くの冒険者や兵士の仰々しい装備に比べて、国王様もラフな格好だったなー。この世界では楽な格好でいられる事がそれなりの身分の証明なのか。
「勝てない相手を何で狙った?」
「……なぜあのお貴族様があの辺りに居たか、私達を捕えるためさ。まあ他にもお忙しい日々の「ついで」にね。こっちは商売上がったり。隠れ潜んで、もう限界だった。戦う気力すらなくなる前に、一か八かの賭けに出たのさ」
「ふーん。でも彼は魔法使ってなかったよな」
「私達を生け捕りにする気だったんだろ。お貴族様の「矜持」さ、反吐が出る」
「なるほど」
「……だから……あんたがあいつを殺してくれて、スッキリした。もやもやが晴れる気がしたよ。まあ、同時に私達も殺されると思ってたけど。でも、あんたは私達を殺さなかった。贈り物をくれた。私達がやり直すに余りあるほどのものを」
「いや、たまたま流れで」
「ありがとう。あの時は、きちんと言えずに申し訳なかった。本当に、ありがとう、ございます……」
すげー恨みを買って面倒事を課されてる所に、その原因に対する感謝の言葉が来て何とも言えない気持ち。
……まあ、丁度いいと言えばいいか。
「じゃあ恩返しして貰おうか。お前達の身に危険は……そこそこあるけど、カネは弾む。だからちょっと後始末に協力してくれ」




