はじめてのおつかい
さて、ヤベー奴ムーブをしに行くか。
その前に宿で朝食を取る。昨日はひたすらかっこんだこの世界の食事。改めて観察してみても前世とほぼ変わらないな。魔物が食材にならない世界だし。あ、でもマナで食材生成とか良く分からない魔法や生産技術はあるらしい。お勉強キャパオーバーできちんと調べてないけど。まあ美味しければ何でもいい。
お宿の看板娘は目の覚める美少女ってほどでもないが、愛想がよく俺にも屈託なく微笑みかけてくれる。この商売上手め、お望みのものをくれてやるよ!
「デザート頼めますか」
「はい!アイスとプリン、どちらにしますか?両方でも良いですよ、ふふ」
「じゃあアイスで」
「かしこまりましたっ!」
アイスも美味しかった。
良い朝だ。生活に潤いがあると面倒な事をこなす気力も少しは湧いてくる。
腹も満たして街道に出た俺は、隠蔽チートで身を隠す……と、急に国王様の前に現れたって事で逆に目立つかもしれない。じゃあ隠れるのではなく「違和感を感じさせない」事はできるか?むむむ、うん、出来るぜいぇいいぇい。というわけで俺は、日頃はダンジョンに籠っているのであろう多くの冒険者パーティとすれ違いながら目的地に向かう。不審者扱いされない状態なので、じろじろと存分に観察する。まあ、大方イメージ通りで良くも悪くも意外性はなかった。報酬金は大金には違いないはずだが、皆の目の色を変える程ではなさそうだ。本気で王子を見つけてカネと名誉を得るっていうより、義理立てっぽい空気をひしひしと感じる。冒険者もそういうしがらみとか付き合いと無縁ではないのか。残念だ。まあこの国が貧乏なせいもあるのか?勝手すると共倒れになるから、とか。或いは単に国民の気質か。分からんけど、段々憂鬱になってきたので振り払うように走り出す。走っても走っても疲れない丈夫な身体は、転生して良かったと純粋に実感できるポイントだなー。
で、目的地その一に到着。埋葬しといてよかったー。同時に道も綺麗に直しといたから違和感は持たれていない。綺麗に直しすぎて、やった俺でも感知チートをフル稼働してなかったらここに死骸を埋めたとは気付けなかっただろう。逆に言えば探し物に長けた奴なら見つけられるって事だ。よし「消す」か。消した。あっさりしすぎて自分でちょっと怖くなる。念のため(あらゆる痕跡無くなれー)と改めてチートを発動。どういうチートを発動してるのかは自分でも分からないが結果は信頼できるという、何とも言えない感覚。
ともあれこれで半分終わり。次の半分が面倒だ。と思ってたら魔物の群れ。まあ周りの皆さんが速やかに処理してくれた。
「魔物に襲われたのか?」
「この程度の奴等相手に王子が遅れは取らないだろう」
「それはそうだが……こいつらが、町のダンジョン産じゃなかったら?」
「あー……「発生」か。一応調べておくか」
「よし、行こう」
可能性に気付いたいくつかのパーティの目の色が変わった。王子を探す名目で発生?したダンジョン攻略が出来るかも、と。やっぱ王子よりダンジョンなんだなー。でかい国なら話が変わるのかもしれないが。
俺もそっちに行きたい気持ちをこらえて、走る。走り倒して最終目的地に到着。
これだけの距離を全力疾走して息一つ切れていないのは結構嬉しい。
国王様のお屋敷にしてはボロ……質素だな。貧しいのか倹約家なのか。両方だろうな。
まあ殺気立っている。危険だ。イラついて殺さないようにしないと。門に慎重に近付きながら「違和感軽減」を徐々に解除。これから国王とする話でこのチートを使ったままだと余計不気味に思われる気がしたから。使用人らしき人を見かけたので、そちらに向けて冒険者カード(仮)を掲げ、遠目から大声で話しかける。狙い通り、兵士達は警戒しつつも待機し、使用人(仮)だけが歩み寄ってくれた。カード様様。クエストの受注記録も記載される凄い奴。冒険者用のスマホと言ったら流石に過言か。
適当に使用人(を言い包めると、一刻も惜しいという感じで国王の書斎に招かれた。
さて、と。俺は国王に近付きながら、ゆっくりと息を吐く。
「よく来てくれた。息子の手がかりを知っているとか」
「手がかりというか犯人です。私があなたの息子さんを殺しました」
国王の微かな動作だけで近衛兵達が止まる。国民全体の支持は良く分からないが、側近の忠誠心は高いらしい。国王を信頼し、判断を待っている。
俺は隠蔽度を弱めたステータス(この貧しい国くらいは滅ぼせますよ、って感じに見えろ、でもやりすぎるなーって念じた奴)を表示させながら、カードを国王に差し出した。
「……」
国王はステータスを一瞥した後、無言で俺の顔をじっと見つめた。スキルではない。いや、スキルと言えばスキルか。経験による観察眼。十数秒ほどで、俺が本当に彼の息子を殺したと分かって貰えたようだ。話が早くて助かる。
「あなたは何故私の息子を殺した」
「この国で人身売買が横行している事は勿論ご存知ですね」
「……ああ」
「あなたは当然、この問題に可能な限り対処し、日々頭を悩ませている。しかしこの国が抱える問題は他にも沢山ある。人身売買の事だけを四六時中考えてはいられない」
「その通りだ」
「ですが、仮にあなたの目の前で人さらいが子供をさらっていたら?あなたは助けますよね」
「息子は、あなたにとっての人さらいだったという事か」
「はい」
「そうか」
凄い人だ、と俺は感心した。怒りをほぼ完璧に押し殺している。この世界で権力者になって理想の国を作るぜ的な夢も密かに抱いていたがすっぱり諦めた。権力を預かるとは、これほどに己を殺さなければならないのか。俺には絶対に不可能だ。
「あなたに一つ聞きたい」
「どうぞ」
「速やかにこの国を去って貰う事は可能か」
「無理です。この国は今の俺に丁度いい。いずれは去りますが時期は俺が決めます」
「なるほど。ではもう一つ聞かせてほしい」
「どうぞ」
「あなたは、この国から人身売買を無くせるか」
「……やってみます。期待はしないで下さい」
こっちを頼まれるのは意外だった。でも考えてみればそうか。ダンジョンとか魔物回りの事は複雑で繊細だ。どれほど腕が立とうが俺みたいな異常者に依存したくはないのだろう。人さらいには人殺しを。少なくとも言葉の響きは丁度よい。
「……感謝する」
返事をせずに俺は屋敷を出た。国王と会う事は二度とないだろう。成果報告も報酬もなし。
いや、「報酬」は、先払いで受け取り済みだ。




