今会いに行きますん
魔界は腰の低いドラゴンさん達の世界だった。あまりの遜りぶりについこちらもさん付けで呼んでしまう。
広い世界のどこでも親切に歓迎して頂き、お食事にお宿まで至れり尽くせりで有難かった。
ただ、悪いけど一通り見せて頂いても、文化、文明的には面白いものはあまりなかったな。ドラゴンさん向けだから色々でかいっちゃでかいのだが、全体的に質素で地味だ。
「退屈させてしまったようで申し訳ありません……」
「え、いえ、こちらこそなんかすみません」
「人間の方々の文明はきっと素晴らしいのでしょうね。怖いけど、でも一度見てみたいなあ……不可能と分かってはいますが」
「……」
魔界を回っていて、大まかな地形が人間界と似ていると思った。完全に一致ではないんだけれど、んー……。魔界と人間界はコインの表裏的な感じ?未踏の地のシステム的にも。
と、別のドラゴンさんが飛んできた。この方も律儀に地面に伏せるようにしてこちらと目線を近付けてから話し出す。
「あの、人間の方。あなたの帰還についてなのですが、未踏の地の入り口側の他に、一つだけ可能性があるかもしれません。いや、ないかも……でも……」
「聞かせて下さい」
「あ、申し訳ない。その、魔界には古く、ずっとずっと古くから言い伝えがあるのです。人間の方々の住む世界、天界、それからもう一つ、別の世界がある、と。どの世界の事も、詳しくは知りません。一番多いのは人間の方々の話ですが、それとて確たる証拠は……無かった……のです」
俺に怯えた目を向け、すぐそれを申し訳なさそうに逸らしながら話を続ける。こっちのが申し訳なくなるやつー。
「天界の事は何も知りません。そして、もう一つの世界についても。でも、未踏の地が人間の方々の世界と繋がるように、この、もう一つの世界への入り口もまた、魔界のどこかに存在すると言われています」
「どこにあるのかは、さっぱり分からない感じでしょうか」
「そうですね、すみません……。歴史文献を全て当たりましたが、行こうとした者、探した者はいませんでした。とにかく、この、もう一つの世界は、人間の方々の世界よりも、あ、すみません……その、比較にならない程に恐ろしい場所だとだけ、伝わっていて……」
全ての歴史文献?さらっととんでもない事言ってる。どう考えても恐縮すべきはこちらなのだが、まあ、これ以上ドラゴンさん達に相手して貰うより、さっさとその「もう一つの世界」とやらを探した方が良いだろう。
「手がかり凄く助かります。ありがとう」
「あ、いえ、こんな情報しか見つけられず、申し訳ない……」
だからー!いたたまれなくなって一旦未踏の地(入り口側)に避難。襲い掛かってくる数十万の魔物がむしろ心地よい。戯れながら探索チート。微かすぎる情報からでも、チートは入り口を見出した。さっさと行くか。
魔界の海。広くて深い。普通に潜ると滅茶苦茶怖そうなのでチートで呼吸も光も確保しつつ目的地へ一直線爆速潜行。深く潜る程、ドラゴンさんを軽く凌駕する大型の魔物が無限に湧いてくる。賑やかしになってかえって助かる。海の底はやっぱり怖いし。
で、深い深い海の底に着いた。ぱっ、と謎の光源で昼間のように明るく、広い空間。入った途端魔物の襲撃がぴたりと止んだ。中央には魔法陣。呼吸チートを解いてみた。やっぱり息ができる。凄く美味しい空気。今度は素直に魔法陣に乗ってやろうと思うが、まずは休息だ。そこまでリソースを喰ったわけじゃないけれど、万全に回復してからじゃないとヤバい、という直感に従う。
ゆっくりたっぷり休んでから魔法陣に乗る。地震は無かった。うん、やはり魔法陣には素直に乗るべき。
転移した先は森だった。当然のように魔物が無限湧き。更に先に進むために探索チート……あー、なるほど。無限湧きの魔物の群れを見やる。
せっかくなので色んな殺し方をしてみる。斬ったり煮たり焼いたり凍らせたり雷落としたり食べたり(味もなく腹も膨れなかった)といった定番メニューから、思いつく限りの拷問刑など。んー、ずっと思ってたけど魔物って生物じゃないよな。どんな残酷な目に合わせても何も感じてないかのように、活動限界まではひたすらこちらを襲おうとする。そして限界が来たら魔石に変わる。プログラミングされたゲームの敵そのものって感じだ。戦闘に関する知能だけは異様に高かったりもするんだけど、それだけ。
殺し方も尽きて来て、結局いつものように適当にやっていく。とにかく数が多い。この数を全部処理しないと、入り口が現れない仕組みだとチートは言っています。じゃあしょうがねえ、殺して殺して殺して殺して……。
ようやく消せた。リソースは全然喰ってないけど精神的に面倒で疲れたな―。さて入り口は……出ない。代わりに魔物の消えた森全体が、何か、変わった。感知、検索……これは、迷路ですね。うわぁ……。魔物の方がずっと楽だよー。
迷路、迷宮、ラビリンス。森全体を迷子になり散らかしながら歩き倒す。移動チートは使えるけど出口が分からないから意味がない。感知、検索は無意味じゃない。俺の頭でこれらのチートが無かったら完全に詰んでいた。でもチートを使ってなお訳の分からない複雑な道のりを地道に進むしかない。なんて性格の悪い森なんだ。この世界に来て以来ぶっちぎりで一番苦労している。
精神的な疲労が嵩むので定期的に休息。休む事の大切さを改めて知る。こんな形で知っても嬉しくない。堪え性の無さ故に幾度となく諦めそうになったが、森への怒りを推進力に変えた。今は焼き払っても意味がないとチートが言ってる。でも出口にたどり着いたら絶対、即座に焼き払ってやる。
その一念だけで進み続け、迷い続け、それでも何とか歩き果てた先に、漸く辿り着いた。
今度は魔法陣じゃないのかよ。一本道の長い長い洞窟。まあいいか。入る前に、ネ。
空間全てを埋め尽くす炎。酸素が無くても葉の一枚、小枝一本全て焼き尽くすまで決して消えない豪華な業火ですよー。
全てが灰と化して少しは気が晴れた。灰の上でのんびり寝転がり、必要以上にたっぷり休息を取ったら、さて、この先に向かいますか。
この先が本番だと分かっていた。明かりも付けずに洞窟を進む。魔物も罠も迷路も無い。純粋な一本道。静かで、穏やかで、心休まるようで、一歩一歩進む程、恐ろしさが増していくようで。知らず壁に手を付きながら、ゆっくりと歩いていく。ああ、出口だ。着いてしまった。
着いちゃったなら仕方ない。光に目を慣らす。空間に出る。途端、洞窟が消える。驚きはない。最初からそうなる気がしていた。
開けた空間を進む。チート無しでも何となく、どちらへ行けば「会える」のか分かっていた。




