2度目の邂逅⑤
もちろん俺はそんなものに屈する気などなかった。
「通せんぼ」などと言っても結局廊下の幅全体をカバーしきれているはずもないし、また「部長」の身体はペラペラで骨と皮みたいな感じなのだから、毎日厳しいトレーニングを積んでいる俺からしてみれば、押しのけて進むこともまた容易である。
だがにもかかわらず、最終的に俺はどうしても練習への誘いを拒むことができなくなってしまったのだが、それはひとえに、すれちがいざまに至近距離から次のような質問を投げかけられたことに由来する。
「この世で最もモテるスポーツが何か、知ってるか?」
無視して立ち去ればよいものの、また俺の悪癖が出た。
つまり、律儀に返答してしまったのである。
「……知るか、ていうか1ミリも興味がねえ、とにかくそこをどいてく」
「ラグビーだよ、聞いたことないか? 大して顔がいいわけでもなく、というよりもむしろほとんどブルドッグ同然の顔をしたラガーマンが、美人のグラビアアイドルと結婚したという話を」
「……」
「要するに、ラグビーをやっているだけで、ただそれだけの理由で、オナゴの目にはその男の姿が非常に魅力的に映るということだよ」
「……その話、本当だろうな」
もちろん言いくるめられたのではない。
断じて、そんなことはあり得ない。
他人の言葉を疑いもせずに頭から信じるなど、俺からは最も遠い所業だ。
しかもそれがあのおかしさの権化みたいな「部長」であればなおさらである。
だからそうではなくて俺はただ試してみようと思ったのだ。
どれだけ「(肉体の)トレーニング」や「(精神の)鍛錬」を積んでも、全く結果が出ていない今、闇雲に努力を続けること以外に何か効果的な方法があるのであれば、試してみる価値はある。
そう考えた俺は、「部長」の軍門に下るのを限りなく癪に感じながらも、ひとまず1日だけ奴に付き合ってやることを選択したわけである。
そうして「学園祭準備」終了後の17時過ぎから、今度は「ラグビーの練習」が始まった。
もちろん「部長」と二人きりでだ。
サイトウがいないのはまあ予想通りだが、他の部員はどこにいったのだろうか?
というか他にも部員はいるのだろうか?
また、顧問はどこにいるのだろうか?
というか顧問は確かにいるのだろうか?
いやそもそも、今はちゃんと練習していい時間帯なのだろうか……?
様々な疑問ですぐさま頭がいっぱいになったが、毎日厳しい「鍛錬」を積んでいる成果なのか、ほどなくして俺は「諸行無常一切皆苦永劫回帰有為転変諸法無我会者定離色即是空空即是色」と唱えつつ、事態をすんなり受け入れることができた。
要するにこれが俗に言う「悟り」というやつなのだろう。なかなかどうして、よい気分ではある。




