夏の翌日⑥
しかし先に「2つ」と予告して置いた通り、俺がタナカを「仇敵」と認めたのにはもう1つ別の要因が関係している。
1日目の「補習」の終了後、素早く荷物をまとめて帰ろうとする俺に対し、奴は持ち前の鷹揚な口調で次のように語りかけてきたのである。
「ねえ、このまま学園祭準備、参加してくでしょ」
「は? ガクエンサ? ……は?」
「学園祭の準備よ、昼からみんな集まるみたいだから、どうせなら、参加してけばぁ」
「いや用事あるんで」これは嘘ではない。そもそも生徒を半日拘束しただけに飽き足らず、さらにそれ以上学校に縛り付けようとするとは、いったいどういう了見なのか?
ちなみにクラスは学園祭で、「ダイラタンシー」と「タピオカ」とかいうのに取り組むらしい。
名前を聞いてもさっぱりわからず、イメージさえできないが、まあいずれにせよ、ロクなものでないことは明白であり、それが明白であるだけで、十分だった。
しかし対するタナカはやけに諦めが悪く、執拗に食い下がって来た。
「いいじゃないの、せっかく同じクラスになったんだから、少しぐらいみんなと思い出作りなさいよ」
「いや、いいです、結構です、それではありがとうございました、さようなら、はいさようなら」
「あんたの立場を考えて言ってあげてるのよ、1人だけ全然準備に参加しなかったら、あんた、クラスで居場所なくなっちゃうわよ」
「結構です、慣れてますので」
「ああそう、じゃあいいわ、明日にでも親御さんに来てもらおう、親御さんも交えて一緒に楽しく、勉強しましょう」
「……脅迫する気か?」
来年は絶対に担任を替えてもらうよう学校側に頼もう、まあ来年まで俺がこの学校にいれば、の話だが……。
俺はそう考えながらも、しかし親を担保に取られてしまえばお手上げであり、結局タナカの「要請」に大人しく従うより他にどうにもしようがなかった。
午前中は「補習」を受け、午後から「学園祭準備」に参加するとかいう、労働基準法違反を大っぴらに謳い上げたくなるような、あまりに多忙かつ過酷かつ高密度な日々が、こうして幕を開けたのだった。
※
意に沿わない流れではあったが、幸い、決定的な過ちを犯してはいなかったらしい。
世界はそのままで1週間余りの時間が漫然と経過する。




