夏の翌日⑤
一つ目は「補習」とは名ばかりで、俺が受けさせられたのは実際にはタナカの個人レッスンだったことである。
まず断りを入れておけばタナカは英語の教師である。ここに一つ、大きなツッコミどころが存在する。
なぜなら既に述べたように、俺が赤点を取った教科は、英語ではないからだ。
英語の科目には2種類あった(「コミュニケーション」と「表現」)のであるが、どちらも56点と47点という、なかなかの高得点を記録していた。
もちろんそれは日々のタナカによる指導の賜物などではなく、俺の頭脳が相応のポテンシャルを有していたことにのみ全面的に由来する。
にもかかわらず、英語以外の科目について、なぜ奴から教えを乞わねばならんのか。さっぱりわけがわからない。
しかしもちろん、「親」を持ち出された時点で、俺には「従う」以外の選択肢が残されてはいない。
夏休み1日目、学期中とほとんど変わらない時間に家を出て、朝のラッシュをほんの少しだけ回避した時間帯の地下鉄で学校に向かった。
指定された応接室に向かうと、扉の前には既にタナカが待ち構えていた。
一応挨拶した後、お互いの認識がすれ違っていないことを確認するため、追試科目が何であるかを改めて確認してみると、奴はこう返してきた。
「安心して、あたし、学生時代、数学と理科が一番得意だったから、それに古典なんて、英語と同じようなものよ」
「……」だったらなんで英語の教師になったんだ? そもそも追試に引っかかった生徒は他にもいるはずなのに、なぜ対象が俺だけなのか? 一教師と一生徒が、本来あるべき間柄を越えて密接な関係を作ってしまって、それで本当に大丈夫なのか? また、なぜ場所が応接室なのか? 密室で2人きりになることを避けるのは、教師として常に心掛けておかねばならない最低限の義務なのではなかろうか……?
あらゆる疑問を無に帰すように、結局予定通り午前中いっぱいをかけて、俺はタナカの合ってるんだか間違ってるんだかも定かでない講釈を、みっちり聞かされる羽目に陥ったのだった。




