夏の翌日④
「あんた……、俺をどうしたいんだ?」
真心を込めて詰問へ舵を切ったつもりだったが、タナカが俺の心中の荒波について、それをほんのわずかばかりでも感知できたという気配はない。
非常に間の抜けた疑念の表明を行うくらいが関の山だった。
「え? ドウシタイって」
「殺す気か?」
「は? え? コロス? は? ちょっとお、物騒なこと言わないでよ」
「ふっざけんな! ブッソウでも何でもねえんだっ! 事実なんだよっ! だから親だけはダメだっ! ぜったいに……、やめてくれ……」
「やめてくれって言われたってねえ……、決まりだからなあ」
俺の激昂とは対照的に間延びした声が、何となく弾んだように聞こえるのは、こちらの気のせいだろうか? いずれにせよ、こいつもまあ頭のどこかおかしいのだろう、可哀そうに……。
まともな説得を諦めた俺は、努めて丁寧な口調で、つまり幼稚園児に嚙んで含めるようにして、改めてこう言った。
「……お願いします、それ以外は何でも言うこと聞きます、だから親、親を呼ぶのだけは、ぜったい、やめてください……」
「ううん……と、じゃあ、代わりに補習、受けなさいよ、約束だからね」
「は? ホシュウ? なんで……?」
「なんでも言うこと、聞くんでしょ」
その時の俺の顔には、さながら苦虫どころか、大ぶりのネジか何かをかみつぶしたような表情が浮かんでいたことだろう。
反面タナカの表情は、一仕事終えた後のようにすっきりした感じだった。
……タナカよ、お前はいったいなぜ、それほどまでに、楽しそうなのか……?
こうして夏休みにも拘らず、俺は「トレーニング」に専念できるどころか、クソ暑い中わざわざ学校まで足を運び、「担任による補習」という、全く生産性がないという意味合いにおいて、あらゆる面でサイアクに近い内容の茶番劇にただひたすら心を無にして参加する羽目に陥ることになった。
時間は決まって朝の9時から12時までの3時間、毎日毎日毎日毎日、お盆の8月12日から15日までの3日間以外休みもなく……、毎日毎日延々俺はタナカから、実にありがたい「薫陶」を受け続けたわけだ。
……いや、おかしいだろ。
恐らく独り身で、どうせ家にいても何もやることがないということなのだろうが、生徒を気散じのための道具として利用するのは明らかに間違っている。教師の職分を明らかに超過している。
そもそも追試は2学期の初めに行われるのだ。夏休みの全域にわたって「補習」とやらを隈なく開講し続ける意味が分からない。
以上の非常に傍迷惑な蛮行に無理やり巻き込んでくれたというだけで、本来であれば教育委員会に電話で懲戒を訴えてもいいぐらいの案件のはずだったが、さらに加えて別の2つの点において、俺はタナカを「素性のよくわからない担任の女教師」から、「忌まわしき仇敵」へと完全に認定し直さざるを得なくなった。




