夏の翌日③
女教師は確かタナカという名字で、4月の始業式の時、大学卒業何年目だとか言って自己紹介をしていたような気もするが、まず「若い女性」という時点で、俺からしてみれば意識の対象から外れていたため、全く記憶になかった。
名字ももしかするとナカタだったかもしれない。
ひとえに「鍛練」の成就に向け、異性を意識に入れないようただひたすら努めてきた俺は、その時初めてタナカの容貌をはっきりと目に収めた。
挙動のいちいちは気に食わなかったが、近くで見ると、こいつもなかなかいいツラをしているらしいということがわかった。
先の女生徒が美人のタイプとすれば、こちらはかわいいらしい感じで、どちらかと言えばこちらの方が個人的には魅力的だと、無意識のうちに品定めを行っている自分がいた。
だがもちろんここで言う「魅力的」とは、「勘弁してほしい」と同義である。
……そもそもなんだってこいつは、わざわざ俺を呼び寄せたんだ? 嫌がらせのつもりか……?
特に厚塗りしているようには見えなかったが、近くに寄ると、化粧品の臭いが濃く香った。
雑念を払うように、軽く頭を振ることを繰り返していると、タナカが再び口火を切った。
「あのさあ、追試のことなんだけど」
「え?」
「大丈夫そうなの?」
「何が……、ですか?」
「対策は? 考えてるの?」
「……いや、必要ないですよ」
「じゃあ、『大丈夫』って、宣言してくれる?」
「え? は? センゲン? ……ああはい、大丈夫です、……これでいいですか?」
「そうじゃないわ、知らないの? 成績不振者は学期末に保護者同伴で面談を受けることになるのよ、あたしと、もう一人、上の方の偉い先生と一緒にね、今から親御さんに電話かけるから、それで、明日、だったかな? とにかくちゃんとした面談の場で、親御さんと、それからあたしたちの前で、大丈夫って、宣言してよね」
一瞬で血の気が引いた。頭の辺りが軽くなり、視界が霞む。平衡感覚が失われ、倒れ込みそうになる。意識もしていないのに呼吸が勝手に浅くなり、息苦しさが増す。
それらの突発的な身体症状に急き立てられるようにして、俺はかろうじて言った。




