夏の翌日②
2日目のテスト返却日は午前授業だった。
俺は自らの点数の予想以上のひどさに愕然としながらも、しかし夏休みは40日もあるという別の大きな事実に目を向け、気分を変えようとしていた。
――そもそも1学期でさえあと2日残っている、つまり2学期が始まるまで、だいたい42日間もあるという寸法だ、そう、まだ焦るような時間じゃない、かつてウェブ上に公開されているメンサのテストに興味本位で取り組んでみた際、IQ120の数値を叩き出したのがこの俺なのだ、無料配信サイトか何かで勉強の動画でも眺めさえしておけば、追試など怖るるに足らずのはずである……。
そう考えながら教室を出た時だった。
「エグチくん」
そのまま無視して進んでいけばよかったのだが、これまでの成育環境に拠るものなのか、呼び止められれば立ち止まらずにはいられないというのが、俺の厄介な習性だった。
思い返してみれば、先日サイトウに絡まれた時も、同じ性癖を無意識のうちに発揮してしまっていたのだろう。
故意であろうとなかろうと、無視などしてしまおうものなら、即座に張り手が飛んでくる。そういうのが俺の人生だった。
だからその時も反射的に立ち止まり、振り返ることをした。
少し離れた位置、正確には教卓の前で、担任の女教師が右手を中途半端に上げてこちらを見ているのがわかった。
「……呼びました?」
「あ、はい、呼びましたよ」女教師はなぜか慌てたようにそう言った。
「なんですか?」
「……えっと、今ちょっと時間ありますか」
「ねえよ」と俺は言いたかったが、女教師が今にも泣き出しそうに見えるほど深刻な表情をしていたので言葉を替えた。
「あの、それやめた方がいいですよ」
「え? それ?」
「自分では、いいと思ってるのかもしんないですけど、その、あんたの何ていうか、その過剰に丁寧な口調とか、態度?が生徒たちを調子づかせるんですよ、大人と子供の境界は、はっきり引いておいた方がいい、どうせ、在学中だけの付き合いなのだから」
「……ガキが、こっちがちょっと下手に出てやれば、偉そうに、……親のすね齧ってる分際で、何もかも分かった風に説教かましてんじゃねえよ」
「え?」
「いや、何でもないわ、アドバイスありがと、じゃあ、タメ口でいくわね、ちょっと話したいことあるんだけど、こっちに来てくれる?」
手招きに引き寄せられるように近づく。




