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讃美歌②

 は?

 私は背中全体のうぶ毛が一瞬で逆立ったような感覚を覚えるとともに反射的に立ち上がった。イヤホンが耳から外れて落ちる。

 要するに音によりもたらされる生理的な不快感が、一挙に限界値に達したということだが、それは実際にはまだ序の口に過ぎない。

「ミチミチミチミチミチッ! ミチミチミチミチミチミチミチッ! ミチミチッミチミチミチミチミチミチミチミチミチミチッ!」

 言うまでもなく、「赤子」の人形が再び泣き叫ぶことを開始してくれたのだった。

 しかも先ほどとは比べ物にならないほど、あまりにバカでかい声でだ。

 本物の赤子であったならば、親から袋叩きにされて物理的に黙らされること必至だろう。少なくとも、私自身はそのような「教育」を受けて育った。しかもここは集合住宅の一室なのだ。何とかして黙らせなければ、これから先、穏やかに暮らしていくことが困難になってしまう。

 ……だが、いったいどうすればよいのか、どうするのが正解なのか……。

 見栄え的にしっくり来るということで、帰宅後すぐに神棚に座らせておいた「赤子」をつかんで持ち上げると、ひとまず便所へ向かおうとした。

 泣き止むまで扉のあるところに封じ込めておこうと考えていた。

 しかしその動作は、実際には完遂まで至り得ない。

「ああめえええ、じんぐれえええ、はあすぅいいい、ざあそおおおおお♪」

 ……たわけている、あまりにたわけていすぎる……。

「赤子」の泣き声に引き続いて、今度は有名な讃美歌「アメイジンググレイス」の歌声が、突如として私の家の中に出現したのだった。

 まさしくカオスと言うほかないが、その文字通り「クソ」みたいな歌声の方は、実際には我が家に端を発したものではない。

 隣に住むバカが、自身のイカレっぷりを世間に知らしめるためなのか、だいたい毎日夜の九時近くなると満を辞して熱唱を開始するのだ。

 しかもサビの部分だけを延々三時間ほど、途中幾度か休憩を挟みながら、だいたい日付が変わるぐらいまで繰り返し続けるのだ。

 仕事などで夜に不在にしている間も、防犯のため自宅の随所に設置してある盗聴器たちが余すところなくその美声を捉えてくれていたので、私はそのことを重々心得ていた。

 ごく控えめに言って、隣人はマジでイかれていやがるのだ。


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