讃美歌①
家に帰った私は雨による汚染を最小限にとどめるためまず洗髪を行った後、蒸気で毛穴に刺激を与えたり、マッサージをしたりして、とにかく入念に頭皮ケアを行った。
ハゲが心因性のものだとすれば、あまり意味はないのかもしれないが、それでもできることをやっておくに越したことはあるまい。
その後、作り置きしておいたカレーを温め、慎ましく夕食を摂ったのち、アイスを食べながらアニメの視聴を開始した。
デスクトップPCを起動し、イヤホンを装着すると、全ての外部刺激をシャットアウトし、流れてくる映像、音声に全神経を集中させる。
その時私が見ていたのは、所謂「ラブコメ」と呼ばれるジャンルの作品だった。
私は大げさでなく「アニメ」を芸術だと考えており、それゆえ基本的にはどんな作品でもいける口なのだが、中でも「ラブコメ」にはひときわ強い関心を抱いていた。
「ラブコメ」とは簡単に言えば若い男女の恋愛模様を、手法として敢えて軽めに(つまり「コメ」ディタッチで)描いたものを指すのだと個人的には解釈している。
だが、重要なのはそういう意味ありげな定義などではない。
そこに出て来る女の子たちがたいていの場合、非常にかわいらしい容姿と所作を兼ね備えているところにこそ着目すべきだ。
というよりもはっきり言って、女の子がかわいらしいことの他に、中身など何も無いのも同然なのだ。
ストーリーや細かなキャラ設定などに関して言えば、既に使い古された感のある「紋切り型」のうちからいくつかを採用して組み合わせ、それらしく見せているにすぎない。
にもかかわらず、ただひたすら「かわいらしい女の子」が登場してくるというだけでお茶の間の注目を集め、一つの作品として成立している。その事実が、視聴のたびに私を強く打ちのめしてやまないのである。
つまり何が言いたいのかと言えば、その時私はそれだけアニメの視聴に本気で取り組んでいたということだ。
「異変」が生じたのは、当該の「ラブコメ」アニメに登場する五人のヒロイン候補のうち、私がひそかに応援している女の子が、主人公の馬の骨と何やら会話を交わし、お互いの好意を自覚するというタイミングだった。要するに、とても重要なシーンである。本来であれば、唾液を嚥下する音さえ立てないよう注意して、集中を持続しなければならない。
そんな私の真剣さをあざ笑うかのように、しばらく止まっていた音が、再びイヤホンを通して届けられてきた。
「ミチミチミチミチミチミチミチミチ」




