2巡目⑧
「……」
「いいよシライシ、俺から話すよ、無理すんな」
またしてもサイトウが登場した。弁舌滑らかに続ける。
「おい、エグチ、いいじゃねえかよ、どうせオマエ暇だろ? お願い聞いてやれよ、部活も入ってないんだし、夏休みに一つぐらい、誰かのためになることをしても罰は当たらないと思うが」
さすがにムカついてきたので、すぐに遮った。
「だまれ」
「え?」
「ならお前がやれよ、確かラグビー部だったよな、普段練習してるところみたことねえし、夏休みも活動なんてねえだろ? というよりも活動してるのか? 部員なんてほとんどいねえだろ?」
ラグビー部は少なくとも4月まで、部員が1人しかおらず、廃部寸前の状況にあった。
その年の春、入学してすぐの頃、同部の「部長」兼「エース」兼「会計係」を自称する2年生部員から次のような殺し文句とともに熱心に入部を勧誘を受けていたので俺はそのことを知っていた。
「今ならすぐに試合に出られるぞ、そして活躍して日本代表まで上り詰めれば、芸能人と結婚することも夢じゃないんだ!」とか何とか……。
また大して親しくもないはずのサイトウについて、なぜその部に所属していることを俺が知っているのかと言えば、GW辺りの頃、ラグビー用の帽子だけをかぶり、あとは体育で用いられる運動着を身に着けてグラウンドへ向かう様子を何度か見たことがあったからだ。
恐らく俺とは異なり、「殺し文句」にほだされ、入部を決めたということなのだろう。かわいそうに。
とは言え、それからもう2ヶ月ほど経過しているのだから、サイトウがまだ部活を続けているのかどうかは知らないし、興味もない。貧相な体つきには、運動部で定期的に活動している気配など、微塵も見て取ることはできないが……。
サイトウは図星を指され、動揺していることを隠したかったのか、しばらくの間、目を開けたり閉じたりするという究極に無意味なことを繰り返していた。
考える猶予が欲しかったのかもしれないが、もちろん俺はそんな「猶予」など、与えてやるつもりはない。
「おい、おいおいおいおいおいっ!」と言いながら近くの掲示板を繰り返し殴ってみせると、サイトウは聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で返答してきた。
「……犬がな、家に来てな」
「……いぬ? 犬がどうした?」
「さいきん犬を飼い始めたんだ、それがまたかわいらしいんだわ、だから無理だ、すまないな」
「……ふざけてんのか?」
「知ってますか?」突然女生徒が声を発した。




