2巡目⑦
さらに数拍遅れて、右の鎖骨下に軽く、だが強い痛みが生じる。
よろけて尻から倒れ込みそうになった俺は、何とかバランスをとって踏みとどまった後、首から上だけを動かして、背後を振り返った。
傘の柄の部分が右肩に引っかかっているらしいというのが見て取れた。そしてその先には、確かに女子生徒の姿が……。
相手が誰であるかを確かめるより前に、言葉がほとばしり出る。
「救急車呼ぼうか?」
「え?」
「救急車呼んでやるから、お前、今すぐ病院行ってこい」
「おいおい、話ぐらい聞いてやれよ、いいだろ、どうせ暇なんだから」
空調の冷気と籠った暑気とが入り混じって澱んだ空気を引き裂くように、サイトウが口を挟んでくる。
直前にあれだけ完璧に言いくるめられたにもかかわらず、凝りずにまた現れ、馬鹿の一つ覚えのように腑抜けた戯言を抜かしてくれたという寸法なわけだ。
俺は何か言いかけたが、すぐに「相手にするのさえアホらしい」と感じ、サイトウを視界から視線を外した。
そして改めて、傘を逆向きに持つ(つまり傘の先を掴んでいる)もう一人の人物の方に目をやった。
言うまでもなく、それは先の女生徒だった。
彼女は俺と目が合うか合わないかという微妙なラインを保ちながら、小さな声でこう呟いた。
「お願いしたいことがあるんだけど……」
出た、とだけ俺は思った。
お願いしたいことがある。
その言葉は「選択」、すなわち「お願いを承諾するか否か」についての「選択」を、こちらに委ねているようでいて、実際には、「承諾する」ことを強制しているのも同然の、極めて悪どい文句である。
それを投げかけられた者は、「お願い」を拒んだ場合に生ずる罪責感を想定せざるを得ず、そしてそれから逃れるため、あたかも自ら進んで主体的に受け入れたのだという風に、「お願い」の承諾を選択する羽目に陥るということだ。
「……やってくれるなあ、まったく」
俺が思わずそう呟くと、女子生徒は「え?」などと呟きながら困ったような表情を浮かべる。
だがそれも結局のところ、「お願い」を押し通すための計算なのだろう。
……たわけている、あまりにたわけていすぎる。




