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2巡目⑤

「え?」

 思わず声に出してしまったのか、ただ胸の内で発しただけなのか、よく覚えていない。だがいずれにせよ、ひどく驚いたのは事実だ。なぜなら予想以上に接近した位置で腕組みするサイトウの隣には、別の小柄な女生徒が佇み、見上げるようにしてこちらを見ていたからだ。

 どういうことだ? 今俺の目の前で、何が起ころうとしているんだ……?

 忌憚なく言わせていただけば、この時の俺の反応、すなわち現状に対する懐疑の念の吐露は、決して大仰なものではない。

 ただし、それをより正確にご理解いただくためには、もう一つ別の情報を提示しておく必要がある。それは俺が「鍛錬」の一環として、「禁欲」を自らに課していたことである。

 ここで用語法について、一つ断りを入れておこう。

 先に挙げた所謂「トレーニング」の数々が、「肉体」面での強靭さを求めてのことだったとすれば、ここで新たに名状された「鍛練」とは主に「精神」面における向上を目指しての試みである。

 それは主に「欲求」の充足を「禁ずる」という形式で為されたものであり、要するに「禁欲」である。

 もちろんこちらについても示唆を与えてくれたのはマジマだった。

 第1の示唆に従い、数か月間、肉体を苛め続けたが、なかなか成果が出ず、言い知れぬ焦慮に襲われ始めた俺は、回覧板を届けにやってきた彼女に対し、肉体を魚にすること以外に良い方法がないか尋ねてみたのだ。

 返ってきた答えが以下である。

「トレーニングってのはさあ、何かを得るためにやるものだよね、強い筋肉とか、そもそも君の場合はもっと別の目的がある、だけど、本当に手に入れたいものがある場合ってのは、他の全てを犠牲にするぐらいじゃないとダメなんじゃない? そのくらい強い気持ちがないとさあ」

 本当に欲しいものを手にするためには、それ以外のものを全て諦めなければならない。

 またしても「師」の名を冠せられるにふさわしいご高説であろう。

 欲望を些かたりとも制限することなく発揮し、不倫に勤しんでいるらしいあんただけはその言葉を口にしちゃダメなんじゃないか、と一瞬俺は思ったが、早速実践に移してみることにした。

 つまり「禁欲」を開始したわけである。

「禁」じる対象とした「欲」は、食欲・睡眠欲、そして性欲の三つで、所謂「三大欲求」と呼ばれるものに該当する。

 食事は朝晩の二食に限定し、お菓子の類いは栄養食であるアイス以外は全く口にしない。

 睡眠時間は約4時間(だいたいAM2時から6時)、性欲に関しては、異性(リアル、バーチャルどちらも)を視界に入れないよう細心の注意を払っていた。

 私見に拠れば、欲望は見ることから始まる。

 逆に言えば、見ることをしなければ欲望を駆り立てられることもない。

 2児の母であるマジマが、「日常生活の中でほとんど唯一俺がまともな会話を交わす異性」となるのはそのような事情に拠っている。

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