2巡目③
マジマは正確な年齢はわからなかったが2児の母親で、しかし見た目からすれば大学生ぐらいと言っても通用するほど若々しい女性だった。
大きすぎるわけでもない奥二重の目と、高く細い鼻梁が絶妙な黄金比を成しており、日常生活の中でほとんど唯一俺がまともな会話を交わす異性であった。
しかしそれよりも何よりも重要なのは、マジマが絶賛不倫の最中だったことである。
ちょうど1年ほど前の夏の終わり、彼女が家族で同じマンションに引っ越してきてすぐ、俺はその事実を知らされた。
どこからともなく噂を仕入れてきた母親から、尋ねてもないのに繰り返し語って聞かされたのだ。
世間ではあたかも「重犯罪」であるかのように、大々的に報道されることもある「不倫」だが、であるからして俺はその噂を耳にした瞬間から、密かにマジマを「師」として私淑するようになっていた。
「不倫」を実現できるということは、それだけ異性を虜にする術に長けていることを意味し、だからこそ未だ女性とお付き合いしたことのなく、それゆえその種の煩悩に常に苛まれ続けている俺からしてみれば、マジマはある種の「恋愛マスター」として、畏敬の念を抱くに値する相手に該当したということだ。
そして実際たまたま玄関のエントランスで鉢合わせした際、「どうしてもお近づきになりたい相手がいるのだが、どうすればよいか?」と、俺は思い切って尋ねることをした。本当は特定の相手がいるわけではなく、とにかく見目麗しい相手なら誰でも良かったのであるが、まあ細かいことはどうだってよろしい。
するとマジマはさすがに先達らしく、初対面にもかかわらず堂々としたもので、「じゃあまずは身体でも鍛えてみたらあ、自信が出てくれば何か変わるかもしれないよお」となどと、舌足らずな口調に似合わない極めて具体的でわかりやすいアドバイスをくれたのだ。まさしく「師」と称されて然るべき豪胆さである。
以来、来るべき「宿願」の実現日に備え、俺はその助言をもとに完璧なルーティンを作り上げ、毎日毎日地道に同じ「トレーニング」を続けてきた。
具体的に言えば、深夜に家の近所の小学校に忍び込み、グラウンドでダッシュを30本、雲梯で懸垂を50回×5セットこなしたのち、最後はプールに飛び込んで30往復するのである。片道25メートルなので、合計で1500メートル泳ぐわけだ。
例えば水泳部員など、泳ぐことが日常の一部と化している人物にとってその距離がどれほどのものなのかは定かでないが、少なくとも専門的な指導を受けたこともない俺からしてみれば、泳ぎ終わった後、ほどよく身体全体に倦怠感がもたらされるような、極めて適度な運動なのであった。
しかしそこで終わりではない。
プールから出て帰宅すると、今度は体幹を中心とした部位を午前2時過ぎまで徹底的に苛め抜く。
そういうのが俺の欠かすことのない日課である。
いかがだろうか?
なかなかどうして無駄がなく、合理的なメニューではなかろうか?




