2巡目②
「学期末なので荷物を持ち返るように」
この一週間で既に何十回も聞かされてきたことを甲高い声でまたほざいている。
もちろんテスト終了と夏休みの近づきのことで頭がいっぱいであり、浮ついた雰囲気の生徒たちの耳に、その言葉が入っているはずもない。
そもそもなぜ「学期末」だと「荷物を持ち返」らなければならないのか、理由がさっぱりわからない。
しかし担任教師はあたかもそのことに命がかかってでもいるかのように、ヒステリックに同じ文言を繰り返している。
それを聞き流しながらも徐々に頭が痛くなり始める予兆を察知した俺は、やはり頬杖を突いたまましばらく外の景色を眺めていた。
「江口」という姓は、名前を書いたり名乗ったりするたび、自らの出自にまつわるどうにも逃れがたい宿命の存在を否応なしに意識させられるという意味合いにおいて、俺にとってひどく忌まわしいものたり得たが、反面、そのおかげでこうして無条件で窓際の席に確保できたことは数少ない僥倖の一つだと言えた。
濃い青色でその大半が塗りつぶされた空は、白い雲がところどころに浮かんでいる分だけ、むしろ余計に夏らしかった。
結局女教師はそれから十分間ほど一人で何事かを喚き散らしていたかと思うと、「はいじゃあ、号令ッ!」などと叫び、挨拶を促した。
しかしやはり誰も反応する者はいない。
それでようやく状況を理解したのか、女教師は今度はすぐに自分で「さよーなら、はいさよーなら」などと呟くと、去っていった。
必死で冷静さを装っているようだったが、扉を開閉する音には強い苛立ちが隠しきれず現れていた。
気持ちはわからなくもないが、反面客観的に見れば、女教師にもクソガキどもにも、それぞれ悪い点はある。
クソガキどもは自身の存在自体が害悪であることをもう少し自覚して、可能な限り静かにしておくべきだし、女教師の方は、もう少しTPOというものをわきまえて行動すべきだ。
テストが終わったばかりのタイミングでわけのわからないことを長々とぶち上げられても、脳みそ空っぽなサルどもがじっとして聞いていられるはずはない。そんなことは、少し考えればわかることだ。
そう考えながら俺は立ち上がり、ほとんど何も入っていない手提げかばんを肩にかけて歩き始めた。
こんなところでグズグズしている場合ではない。俺は一刻も早く家に帰り、トレーニングに励まなければならない。
奇声を発しながらクソガキどもを押しのけながら、足早に教室を後にする。
女性を虜にするためには、まず肉体を鍛え上げて自信をつけるとよい。
そうアドバイスをしてくれたのは、同じマンションに住むマジマだった。




