2巡目①
「なあ、エグチィ、ちょっと話あるんだけど」
1学期末テストの最終日、最後の科目は現代文だった。
ヤバい門の上で死体の髪の毛を抜いていたヤバいクソガリガリのババアの身ぐるみを、ヤバくバカでかいニキビを大切に育てる職なしのクソヤバい男が剥いで逃げ去るとかいう、あまりにもクソヤバすぎる小説を読まされ、問題を解かされ、うんざりした気持ちになっていた俺は、答案が集められるまでのわずかな時間さえ我慢できず、真横の席から絡むようにして声をかけられたことでさらに憂鬱な気分になった。
それでなくとも、奇声を発してテストの終了を喜び合う連中を目の当たりにさせられるのは精神的にひどく苦痛なのだ。
騒がしいところは苦手だった。
物心ついた頃から、罵声や叫び声が日常の暮らしを送ってきたせいだろう。学校ぐらいは、せめて静かに時を過ごしたかった。
しかしもちろん応答しないわけにはいかない。
呼びかけを黙殺すること、それは下手を打ては平穏な日常を取り上げられるきっかけにもなる。
これもまた生活の中から得た教訓の一つだ。
だから俺は机に頬杖を突いたまま、視線だけを向けてこう言った。
「なあ、これ、いじめだよな?」
「え?」
「どう考えてもこの男はやりすぎだろ、いきなり飛び掛かって押し倒すとか、まともな人間の所業じゃない、今なら傷害罪で一発アウトだろ、しかも『何をしていたのか言え』などと追及しておきながら、答えを聞いたら勝手に失望し、『憎悪』を蘇らせるとか、あまりに身勝手すぎるだろ、だから仕事もクビになるんだよ、いったいこれまでどういう人生を歩んできたのか」
「……お前何言ってんの? ついにおかしくなっちゃったか? ああ?」
おかしいのはお前の髪型だよ、と俺は話しかけてきた相手、サイトウの頭を見ながら考えていた。
同じクラスで、出席番号順に座ると隣の席に当たるとはいっても、「他者」との交流を避け続けてきた俺は、サイトウについてほとんど何も知らないのも同然だった。
それでも残念ながら整髪剤のつけすぎで黒光りするボリュームある髪の毛を、いつまでも「知らない」ままで済ませることはできない。
……気合を入れるのは個人の自由であり、身だしなみを気にするのは結構なことだが、残念ながら貴様のその頭は、どう好意的に見てもチョコレートケーキを頭に叩きつけたようにしか見えないのだが、それで、大丈夫なのか?
眉根を寄せた俺の心情をどう読み取ったのかは知らぬが、サイトウは一瞬だけ虚を突かれたように口をつぐんだが、すぐに発声を再開した。
「それよりもさあ、ちょっと頼みたいこと、あるんだけど」
「は? ……カネか? 貸さねえよ」
「そうじゃねえって、真面目な話だよ、いいか、よく聞けよ」
しかしその時はそれ以上、「話」を聞くことはできなかった。
担任の女教師が教室に入ってきて、終礼を始めたからである。




