復讐⑤
病に臥せる本人が悪いというわけではもちろんないが、事実としてその感触の異様さから、心臓の裏側辺りから背中全体を目掛けて怖気が広がり始めたところで僕は手を離すと、振り返り言った。
「さあ、今度はお前の番だ」
「……」シライシは無言で心底嫌そうな顔をした。
顔立ちが愛らしい分、そのしかめっ面は予想外に僕の心に、一瞬ではあるが深く突き刺さった。
マンドリルに敵意をむき出しにされたところでとりわけて何かを感じることはないが、ダビデ像から面と向かって激昂された場合、それなりに深刻なダメージを精神に負う可能性が高いというのと同様である。
だが反面、シライシのその表情は、実際には僕が求めて引きだしたものでもあった。
つまりシライシは間違いなく、「父親」という存在に対して相応の嫌悪感を示していたということだ。
美人に睨まれる苦しさと、意図通りに事が運んだことに基づく爽快感。相反する2つの心情の狭間で、僕はいつしか強い眩暈に巻き込まれ始めていた。
そしてその最中、誰も予想していなかったことが起こった。
「あなたたち、いったい何やってるの?」
部屋の入り口にいつしか現れていたらしい第三者が、大きな声でそのように言い放ってきたのだ。
全体的に異国情緒を色濃く漂わせる風貌の女性看護師だった。
白い制服がパンパンに膨れ上がるほどふくよかな体躯をしており、人によっては情欲をそそられることもあるのだろうが、残念ながら鼻梁の通った女性が好みの僕は全くそそられなどせず、どうやらまた厄介事が持ち上がったようだと、うんざりした思いをただひたすら弄ぶぐらいが関の山だった。
それでも他に選択肢がないということで、億劫でずいぶん迷いはしたものの、結局僕はほどなくベッドを離れ、入口の方に少しだけ近寄ると言った。
「何って……、見舞いですよ、それ以外にありますか」
「ミマイ? サイトウさんにですか? それは珍しい、というか初めて見たかも」
「……」
「じゃあ、ということはあなたがお孫さんなのね、じゃあお母さんか誰かに伝えてくれるかな、洗濯物溜まってるから取りに来てくださいって」
僕が返答に窮し、一瞬黙り込むと、許可してもないのにしかさずシライシが口を挟んできた。
「ねえちょっと、『初めて見た』って言ってるけど、どういうこと? いつも来てるんじゃなかったの?」




