復讐③
その「痣」の存在を把握したのは、謹慎明けの学校の廊下でシライシと出会った時のことである。
少し思い出していただきたいのだが、その直前、僕はナカガワからひどく激しくまくし立てられていた。
「県立高校教諭の男」が「高校生の長女」に暴力をふるい、逮捕されたとか何とかいうあれである。
そしてナカガワの中ではなぜか、問題の「教諭」は、この学校の「教諭」であり、僕たちの担任でもあるヤグチだと、そういうことになっているらしかった。
もちろんこの「推理」についてはこじつけも甚だしいと一蹴されて然るべきだろうが、反面、その「推理」を聞かされていたからこそ、シライシの顔に痣があるのを見つけた時、僕の頭の中に一つ別の仮説が浮かび上がってきたというのは確かな事実である。
その「仮説」とは、ナカガワから見せられた記事の中で暴行を受けたと報道されていた「高校生の長女」が、自分の目の前にいるシライシなのではないか、ということである。
もちろんヤグチの方のめちゃくちゃなこじつけとは異なり、この「仮説」には以下に示す通り、きちんとした根拠がいくつも備わっている。むしろそうでなければ、わざわざ声高に主張などしない。
シライシは確かに「十五歳」である(11月生まれという情報を僕は既に入手していた)。
シライシは確かに「高校生」である。
シライシは確かに「長女」である(弟がいるという情報を僕は既に入手していた)。
いかがだろうか? いや問うまでもなく、シライシ=例の「高校生の長女」という等式は、もはやある種の「定理」として、万人が納得し得る自明性を備えていると断言してよい。
つまりシライシにまつわる多くの情報が、確かにニュース記事の中で報道されていた内容と、偶然にしては出来すぎなほど合致するのである。
「県立高校教諭の男」(それがヤグチか否かについては大いに議論の余地があるが)に虐待されたという「高校生の長女」がシライシでなければならないわけではないが、シライシであっていけないという論理もない、要するにそういうことだ。
そして同様の見地からすれば、シライシが学校で禁止されているアルバイトをしていたことについても、着目しないわけにはいかない。
なぜならその事実は、彼女が学費を十分支払ってもらえないほど、家庭内でひどい扱いを受けていたということを何よりも如実に示しているからだ。
そしてもし仮に先の等式(シライシ=「高校生の長女」)が本当に成立するとすれば、彼女に対して最も残酷な仕打ちは、「父親」に該当する人物に対面させることを措いて他にあるまい。
なぜなら繰返しになるが、「高校生の長女」は「父親」から虐待を受けていたのだから。




