復讐②
天井の照明が灯されておらず、全体的に薄暗さを感じさせる部屋だった。
それでも口元にかぶせられたプラスチック製のマスクの表面で、微かな曇りが生じては消えるということを繰り返している様が見て取れ、患者が確かに生きて呼吸を続けているということがわかった。
空調は稼働しているらしかったが、窓が開けられているためなのか、生温い空気がほのかな腐臭を伴い、室内に漂っていた。
それを突っ切るようにしていったん奥の壁までたどり着き、その全面を占める窓の桟にもたれかかると、しばらく外の世界の様子をぼんやりと眺めた。
片側一車線の通りを一本挟んだ向かい側には中華料理屋と不動産屋に挟まれて大きなパチンコ屋の建物がそびえ立っている。平日の昼間だというのにひどく盛況しており、交通整理の男性が長袖長ズボンの見るからに暑そうな服装でせわしなく行ったり来たりを続けていた。
「ねえ、いい加減説明してよ、ここはいったい何なの? あんたは何がしたいの?」
病室の入口のところに留まったまま、シライシが高い声で糾弾してくる。
「……本当に知りたいのか?」
「ええ、さっきから何回も言ってるじゃない」
「本当に、知りたいんだな」
「……しつこいわねえ」
「そうか……、実は、……これは俺の父親なんだ」
窓から離れ、横たわる人物に近寄りながら僕は言った。
先述の通り顔の大部分がマスクで覆われていること、及び点滴チューブから最低限の水分のみを摂取しているという状態のために全身が枯れ木のようにやせ細っていることから、実際には見た目を通じては性別を判定することさえ困難だった。
だがいずれにせよ、そのような「父親」との接触をお膳立てすること、それが僕がシライシをこの場所に誘った目的だった。
いや、そうではない。
その「誘導」もまた目的ではなく、実際には手段に過ぎない。
僕の本当の目的は、シライシへの「復讐」である。
だが、表面的には「父親」の「見舞い」と述べ表されるべき活動が、いかにして「復讐」と結びつき得るのか。
ポイントはひとえにシライシの顔にある。
美人で僕の好みに合致することは、単に「前提条件」を成しているにすぎない。
つまりそれがなければそもそも僕は彼女に興味を抱くことさえなかっただろうということだが、ここで着目すべきなのは、シライシの顔のちょうど右頬の辺りに、薄く痣のようなものが浮かんでいるように見えたことである。




