復讐①
正面玄関の扉を開け、まず靴をスリッパに履き替えた。設置された消毒液の匂いが、ガラス一枚隔てて院内と接する位置に設けられた下足スペースをまだらに満たしている。
最寄り駅から自宅までの道のりの途中に位置する病院だった。
「~クリニック」との名を冠せられており、わりと大規模な病院だった。
反面、入院客との面会に際しては、特に申し込みなどを必要とせず、平然とした態度を装ってさえいれば、特に咎められることもなく先へ進んでいくことができた。
昔同じ病院に祖父がしばらく入院しており、また最近も時折見舞いに訪れるが機会が多くあったので、僕はそのことを知っていた。
要するに部外者から見ても心配に思われるほど、あまりにセキュリティがずさんすぎたということだ。
だからスリッパに履き替えたところで、「ねえ、これ勝手に入っていって大丈夫なの?」と疑問の言葉を投げかけてきたシライシの感覚は間違っていない。
午後3時をわずかに越えたぐらいという、ちょうど暑さがピークを迎える時間帯のせいなのか、待合室には人影がほとんど見受けられなかった。
会計を待つ患者よりも、窓口の向こうで何やら忙しそうに動き回っている事務職員の方が数が多いくらいだった。
待合室にはテレビが置かれていて、ほとんど観る人もいないのになぜか海外サッカーの試合か何かが放映されていた。
それをぼんやりと眺めながら待つことだいたい30秒、上の階から降りてきたエレベーターに乗り込んだ。
シライシが後に続くのを見届けてから僕は扉を閉め、「2F」と書かれた〇ボタンを押した。
心なしかエレベーターのカゴ内の空気がよどんでいるような気がして、二階にたどり着くまで、僕は可能な限り息を吸わないよう心掛けていた。
上の階に辿り着くとすぐに左折し、通路を道なりに少しだけ先へ進んだ。
「ねえ、いい加減どこへ向かっているのか教えてくれない?」とシライシが不平を漏らしてきたがもちろん無視し、しばらくして現れた3つ目の病室へと身を滑り込ませた。
扉はもともと解放されており、だからこそ僕は音を立てることもなく、その部屋へ立ち入ることができたわけである。
何度も訪れている場所なので特にそうする必要もなかったのだが、一応入ってすぐのところで立ち止まり、様子を窺った。個室ではなく、全部で4床(2列×2列の配置)のベッドが用意されており、いつも通り、そのうちの1つ、入口から見て右奥に当たる位置のベッドの上にだけ患者が仰向けに横たわっているのが確認できた。
改めて近寄っていく。




