終りの季節⑧
しかしそんな僕の気持ちを知ってか知らずしてか、後をつけて来る者がいた。
気のせいだと自らに言い聞かせ、しばらく歩き続けてみたのだったが、足音は消えることがなかった。
階段の前まで来たところで立ち止まると、初めて振り返ってみた。
予め想定できたことではあったが、そこにいたのはシライシだった。
いったん目が合うと俯き、しばらく何も言わないまま視線を足もとに向け、身体を微妙に左右に揺らすようにしていた。……いったい何がしたいのか?
しびれを切らしかけた僕が「……まだ何か用か?」とかろうじてそれだけ漏らすと、ほどなくして顔を上げ、こちらを見据えて言った。
「お礼したいんだけど」
「オレイ?」
「あの時、コンビニであたしのこと助けてくれたんだよね」
おいおい、どういう風の吹き回しだ? と僕はまず思った。こちらはいったい誰のせいで「謹慎」の憂き目を見たと思っているのか? それがこの期に及んで、お礼だと? 笑わせるなよ、イかれてるのか? ラブコメのワンシーンでも再現しているつもりなのか? 自分が何をほざいているのか、わかっていないのか?
「……いや、いいよ別に、自分がやりたくてやったことだ」
「でも、それじゃあたしの気が収まらないの」
予想外に強い視線を浴びせられ、僕の方が思わず目をそらさずにはいられなくなった。
……ますます展開がラブコメじみてきたようだと僕は思った。いや、ラブコメというよりもむしろ乙女ゲームだろうか、いずれにせよ、アニメか漫画かゲームかに影響を受けていることは間違いない、それにしても、いったい何を意図しているのだろうか……?
コンマ三秒ほどの沈黙の後、僕が思い当たったのは、罠である可能性だった。
要するにシライシの言葉を本気で受け取りなどしようものなら、あとでSNSか何かでクラス中の笑い物にされ、さらに取り返しのつかない事態を自ら招いてしまうことになるというわけだ。忌まわしいことこのうえない。
だが僕は実際には全ての悪感情を胸の内に押し込め、次のような返答を与えたのである。
「……へえ、どんなことしてくれるの」
「できることならなんでもするわ」
「じゃあ、付き合ってくれ」
「え?」
「ちょっと今から行きたいところがあるんだが、付き合ってはくれまいか」
「……あ、そう、それぐらいなら、いいわよ」
僕はその返事を聞くと一度うなずき、「よし、じゃあついてこい」とだけ言うと、階段を降り始めた。




