夏の魔物⑦
「……」
「あいつも言ってきたんだよ、コンビニで買い物してたらお前がいきなり暴れ出して困ったってな、どうすんだよ、こんな偶然はあり得ねえよな、これでもう、言い逃れはできねえだろ」
また話が違っていると思い、いや、あいつがしていたのは買い物ではなくアルバイトだと僕は口走りそうになったが、このあたりで貸しを作っておくのも悪くあるまいと冷静に判断を下し、発言を加工してヤグチにぶつけた。
「……相談してきた生徒の名を、勝手に他人に明かしてよいのか? それが本当に教師のやることか?」
痛い所をついてやったと思ったが、これに関してはヤグチはどうやら想定済みだったようで、実際には淀みなく言葉を返してきた。
「いいんだよ、それがあいつの望みだからな」
「……アイツノノゾミ? ウソをつけ」
「自分の罪を認めて償ってほしい、のだそうだ」
「……適当なことを……、言いやがって……」
結局それからしばらくやり取りを続けたものの、罪状が取り消されることはなく、最終的に僕は保護者を呼ばれ、校長室にまで連れていかれることとなった。
そして学校長の同席の下、保護者同伴の場で、生活指導部長から自宅謹慎1日を言い渡された。
僕が終業式の行われる7月20日に学校を欠席したのはひとえにこのような経緯に拠っている。
学校へ行く必要がなく、1日ゆったり過ごしていられること自体は、個人的に望むところだと言えなくもなかった。
しかし内申書に傷がついたという点と、反省文を400字詰めで10枚も書くよう要求されたという点、さらに「自宅」で「謹慎」している限り、実際には決して「ゆったりと一日過ご」すことなどできないという点に関しては、どれだけ考え方を変えてみても、肯定的に捉えるのは難しかった。
……にも拘らず、たった一日の謹慎期間を終えて学校に来てみれば、担任のヤグチは逮捕されたとかいう噂の渦中にあり、当のシライシは、会うなり僕の心配をするような言葉を投げかけてくる、だと? ……お前のせいでこのようになったというのに? ……いったい何がどうなっているのか?
シライシと面と向かって対峙していると、苛つきと不安、焦り、憎悪などの入り混じった気持ちが高じ、息苦しさが顕著に増大し始めたため、僕はかろうじて「よお」とだけ返答すると、すぐさま踵を返し、その場を離れようとした。
そもそももう今は夏休みなのだ。こんな容姿がいいだけの(まあそれが一番重要なことではあるのだが)わけのわからない女にかき乱されて、せっかくの休暇を台無しにしてしまうほど愚かなことはあるまい。




