夏の魔物⑥
「……」
「あくまでだんまりを決め込むつもりか? 黙ってればそのまま時が過ぎていつか全てが自然とうまくいくなどとは決して思うな、こっちはもう証拠をつかんでんだ、本当に何も身に覚えはないと言い張るつもりか? 昨日の夜、どこで何をしていたのか、思い出してみろ」
ヤグチのよく日に焼けた顔が歪む。
陸上部の顧問で、このクソ暑い中、毎日外での練習に付き添っていることをうかがわせる特徴は、本来見る者に熱心さを感じさせ、場合によっては敬意の類いを呼び起こしたとしてもおかしくなかろうが、しかし僕に対しては、単に「傲岸」だという印象を強める方向にしか機能しない。
喋るたびに身振り手振りを交えて大げさにパフォーマンスを試みる姿は、ワックスか何かでツンツンに逆立てられた剣山のような髪の毛が同調するように揺れるのと相まって、見る者を不快にするのに十分すぎるほど足りている。……そもそも証拠をつかんでいるのであれば、初めからそれを提示してくれればいいじゃないか。
「……さあ?」
「そうか、あくまでしらを切りとおすつもりだな、自分の口で説明してほしかったが……、仕方ない」
「……」僕は黙って自分の手首の外側にいつの間にか生じていたらしい赤茶色のシミを見ていた。
「今朝電話がかかってきたんだ」
「デンワ? 何ですか、それ?」
「惚けるなよ、お前、昨日、コンビニで大暴れしたんだろ、隠しても無駄だ、バレてる、バレバレだよ、他人の飲み物を奪い取って勝手に飲んだらしいじゃないか、被害に遭った男性の方からお叱りの電話を頂いたよ、こんなのは前代未聞だってな、そして俺も実際、同じことを思ったよ、さすがにこれは擁護のしようがない……」
それを聞いて、思わず罪状が事実とは異なることを指摘しそうになった。
僕は他人の飲み物を飲んだりはしていない。ただそれを振って溢れ出させただけだ。
だが、寸でのところでそれが悪手であり、もっと他に言うべきことがあると冷静に判断し、その判断に従って言葉を返した。
「ちょっと待て、仮にコンビニで何かが起こったとして、その首謀者がなぜ、俺なのか? その電話をかけてきた相手は、確かに問題の人物のことをアオキダイスケ十五歳童貞であると、名指していたのか?」十五歳童貞であると、名指していたのか?」
反駁されることに慣れていないのか、ヤグチは少し口ごもったように答えた。
「ドウテ、イ? というか誰に向かって口きいてるんだよお前」
「話を逸らす気か?」
「ああ、ほんとめんどくせえな、いいやどうでも、さっきなあ、別の人物からもほとんど同じ内容のことを相談されたんだわ」
「別の……?」
「シライシだよ、知ってるだろ? 同じクラスのシライシリョウコ」




