夏の魔物③
だから僕がやがて実際には2人に近寄っていく方向へと動作を開始したのは、目の前でまさに展開されつつあった事態にさらにもう1つ、重大な要素が含まれていたからに他ならない。
その「要素」とは、端的に言えば、ハゲに絡まれていた「店員」の存在である。
彼女のことを僕はよく知っていた。
なぜならその人物は、クラスメイトの白石涼子だったからである。
コンビニの制服を着用しており、髪の毛も後ろで一つに束ねていたが、間違いなくそれはシライシだった。
彼女に強く劣情の類いを抱いている僕が、いくら普段と異なる格好をしていようとも、その姿を見間違えるはずがなかった。
そしてそのことに気がついた瞬間、僕の脳裏から退却するという選択肢が消えた。
見るからにイカレていそうなオッサンと、知り合いの美少女。
本来全く相容れるところのないはずの二者によって占められた構図を目にした際、シライシには申し訳ないが、これはむしろチャンスだと、僕は考え始めていた。それまで自分が童貞であるという引け目からなかなかアプローチできずにいたが、この窮地から救い出してやりさえすれば、関係性を進展させられる可能性は大いに高まるというわけだ。
だからこそ、僕は明らかに厄介そうな状況に、望まないながらも自ら進んで身を投じる羽目に陥ったわけだが、その「接近」は、当のシライシにとってはあまり好ましいものではなかったようである。
と言うのもほどなくして僕に気づいたシライシは、露骨に嫌そうな顔をしてから顔を背け、以降決してこちらを見ようとしなかったからだ。
要するに、完全に無関係を装っていたわけだった。
その反応で僕は少なからず傷ついたが、その時点ではまだ、相手に悪気がないと考えていられただけマシだった。
シライシは、アニメを見るぐらいしか楽しみがなく、学校では基本的に陰気で人付き合いに乏しいキャラを演じている僕にも明るく話しかけてきてくれるほどの聖人である。
知り合ってすぐの頃、何かのはずみでアニメの話題になったことがあり、いけないと思っていながらも抑制が効かずに僕が勢い込んでまくし立ててしまった時でも、軽蔑することなく優しく相槌を打ち、こちらの発言をさらに引き出してくれたほどの聖人なのである。
だからこの場合も、ただ単に校則で禁止されているアルバイトに精を出している様を見られたくなかっただけなのだろう、と僕はそう解釈して自分を納得させていた。
それにいずれにせよ、シライシがどう思おうと、やるべきことが変わるわけではない。




