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夏の魔物②

 とは言え仮に事態の認識がそこで完了となったのであれば、僕は特段気に留めることはなかったかもしれない。

 いくら理不尽であろうと、客の要求には可能な限り真摯に対応する。それもまた店員の大切な役目だからだ。

 嫌ならやめればよい。単純な話である。

 だからもしそれだけだったのであれば、汗が引くくらいまでそこに滞在した後、アイスを買うという目的を済ませ、日が沈んでもなお膨張した熱気の充満する外の世界に嫌々ながら再び足を踏み出していくという風に、僕は行動したはずである。

 だが残念ながら、そううまくはいかなかった。

 その時出来した事態に対し、ここまで述べてきたこと(つまりハゲが店員に何かの「不在」を訴えていたこと)は、実際には極めて基本的で表面的な情報にすぎない。

 より核心的な意味合いにおいて重要なのは、まずハゲが「不在」を訴えた対象の内容である。

 そこがコンビニであるという条件をふまえれば、その「対象」として、例えばカップ麺、シャーペンの芯、避妊具、ヘアワックス、タオル、履歴書などを想定することができるだろう。

 つまり欲しい「商品」が置いていなかったために激高したということである。

 だが実際にハゲが欲しがっていたのはそのどれでもなく、端的に言えば「オマケ」であった。

 有名なラブコメアニメとコンビニがコラボし、数日前からエナジードリンクを2本買うと、限定のステッカーを一枚もらえるというキャンペーンが行われていた。

 ステッカーは当のアニメの主要キャラクターがデザインされたもので、全部で5種類(つまりキャラクター5人分)あり、また1つのコンビニにそれぞれ6枚ずつしか置かれていないようだった。

 つまり全部で30(=5×6)枚というわけである。なかなかどうして貴重な品と言ってよいだろう。

 かく言う僕もアニメ好きの端くれなので、かなり前からその情報は入手していた。

 というよりも正直に言えば、その「オマケ」自体を既に僕は3種類入手済みだった。

 キャンペーンが始まった日は運よく期末テストの最中に当たっており、午前で学校が終わるとすぐに数軒の店舗を回り、見事狙い通りのアイテムを入手することができたのだ。

 そのキャンペーンのことが気になりすぎて勉強が手に着かず、テストの結果は散々だったが、しかしそれを補って余りあるほどのよい気分が、「オマケ」を手に入れられた僕の胸に広がったことは言うまでもない。

 だからそれを欲しがる気持ちはよくわかるのだ。

 だが、だからと言ってイチャモンをつけるのはまた別の話だ。それは当のアニメキャラクターたちやアニメ自体を汚すことにも繋がりかねない非常に危険な行動である。

 しかも正装し、大分年齢を重ねているはずの、いい大人が同然のアクションを起こしたのだとすれば、それはもはや犯罪同然の極悪非道な振る舞いとして、然るべき措置を与えられねばならない。今更ながら僕はハゲに問いたい。これまでの人生で、貴様はいったい何を学んできたのか……? 

 しかしお言葉を返すようで恐縮なのだが、それだけであれば、やはり僕はまだ状況を看過してそのまま何事もなかったように日常生活に復帰することができただろう。

 いくらそれが真っ当なものではなかったとしても、他人同士のいざこざにいちいち首を突っ込もうとするほど、僕は尊大ではない。

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