そして「天国」へ④
「なあユウイチ、聞いてくれよ、パパなあ、今度、再婚することにしたわ」
「……」サイコンだと?
……つまり、「よろしく」やっていたわけか? 俺が自分を犠牲にして、貴様のために奉仕している傍ら、貴様の方は、好き放題、「やること」をやっておりくさりやがったというわけか?
「お前にもだいぶ迷惑かけたけど、もう大丈夫だ、好きなように旅立って、好きなように人生を送ってくれればいいぞ」
「……」……たわけている、あまりにたわけていすぎる……。
それから先のことはよく覚えていない。
気づくと父親が床にうつぶせに倒れていた。
私は右手の甲、人差し指から小指までの並びの根元に疼痛を覚えながら、荒い呼吸とともに上からその様子を眺め続けていた。
この出来事がきっかけで、私は教職を離れ、さらに生まれ育った馴染みの土地自体にも別れを告げなければならなくなった。
こう言うと何やら未練があるようだが、思い切って父親を病院送りにしたことで、結果的にようやく本当に「自分の人生」が始まったのであるからして、後悔など全くしていない。むしろ遅すぎたぐらいだ。もっと早くにこうすべきだった。
だが、タカハシによる暗号めいた「愛の囁き」を目の当たりにさせられた時、私は自らを取り巻く問題が何ら解消していないのだということに気づかされた。
その「問題」とは私が童貞ということであり、だからこそ父親やタカハシと言った連中から、いつまで経っても舐め腐った態度で好き放題利用され続けるのだということである。そしてその末路が……ハゲとあっては、やるべきことはただ一つしかない。
そう、可能な限り早急に、童貞を捨てるのである。
※
そのような考えのもと、実際に風俗店までやってきた私だったが、しかしすぐに、どうすればよいか、わからなくなった。
人生の行き先に迷ったとか、そういう大仰な話ではない。
単純に風俗店の作法についての知識がなかったのだ。
毎日家事に追われていたため、所謂「彼女を作る」こととは無縁の青春を送った私だったが、性的な事柄に対する関心は人一倍強い方だった。
学生時代などは同年代の若者の御多分に漏れず、その類の動画や画像の収拾や視聴に熱を上げていたものであり、だからこそ、風俗店の場所も知悉していたわけだが、反面、実地調査にまで踏み切ったことはなかった。
……そもそも「性感ヘルス」などと謡われているようだが、それはいったいどのような種類のお店なのか? 本当に童貞を捨てられるのか……?
予想外に大きく不安が膨れ上がり、頭に血が上っていく。




