二人目の「消失」と、託された「任務」②
やがて、横開きの扉の前で看護師は立ちどまった。
目線ぐらいの高さに横長の小さなプレートが掲げられており、そこに「処置室A」と記されている。
看護師に続いて私も中に入った。
ディスプレイに向かいながらキーボードで忙しなく文字を打っていた医師がこちらを向き、「ああ、すみませんね、お待たせしてしまって、あ、どうぞ、お座りください」と言って椅子を勧めてきた。断る謂れもないので大人しく腰を下ろす。
マスクで鼻から下を隠してはいたが、軽くパーマをかけたような頭髪を初めとして、私より若そうな男の医師だった。こんな時間まで仕事とはご苦労なことだ……と、私はまずそのことを思った。
医師は私が着席したのを確認すると、隣にあるベッドを見やりながら言った。
「お父さんですけど、ひとまず大事には至ってなさそうです、まあCTしかとってないんで、断言はできないんですが、でも、頭打ったりとかは、していないんですよね」
「……ええ、まあたぶん」
私もつられて医師の視線を追う。ベッドの上には仰向けに父親が横たわっていた。顔の左半分が大きめのガーゼで覆われている。目を閉じたまま、全く何の反応もなく、呼吸が止まっていると言われても、信じられそうな感じだった。
「右目の下の頬辺りがだいぶ内出血起こしてますけど、まあそのうち何とかなるでしょう、もう一度聞きますけど、頭打ったりはしていないんですよね」
「あ、はい、たぶん」
「まあ、じゃあそういうことにしとくとして、で、何があったんですか?」
深夜の勤務とは相いれないオシャレな髪形と可愛い顔をして、まさしく「痛い」ところをグイグイついてくるなあ、と私は思ったが、答えは予め用意してあったのでそれをそのまま返した。
「いや、なんか、酔っぱらって転んで、テレビの角に顔ぶつけちゃったみたいで」
「血は結構出ましたか?」
「血?」
「ええ、血です」
「え……っと、どうだったかな、まあ出たんじゃないかな、普通にそれなりに」
医師は納得したのか、諦めたのか、わからないがそれ以上追求してこようとはしなかった。
一瞬、間が空いた。
そしてその「一瞬」で、私は何かを思い出そうとしていた。……あれ? そう言えば、オレが父親を病院送りにしたのはもっと前のことでは……?
しかし、ほのかに浮かび上がった疑念は、医師の次のセリフにより粉々になって消えた。
「それはそれとして……、大丈夫ですか?」
医師が私の頭を指さしている。
「え? ダイジョウブって……また? 何が?」
「すごいハゲてますけど、若いのに、ご苦労されてるんですねえ」
「……なに、を?」




