二人目の「消失」と、託された「任務」①
「――さん、――さあん」
誰かに呼ばれた気がして目を開けると、「気」のせいではなくて実際に「誰かに呼ばれ」ていた。
年配の小柄な女性。
後ろに束ねた長い髪を震わせながら、覆いかぶさるようにして私の肩を揺すっている。
痩せ気味で、薄暗い中でも顔の皺が目立った。一番初めに意識を捉えた長髪は、黒く染められているようだったが、そのせいで生え際の辺りにちらばる白い毛が逆に存在感を増している。
そんな細かい点ばかりが頭に入ってきて、肝心の情報、すなわち今ここがどこでいつなのかという点については定かでないままだった。
「……あっ、えっと」
ガランとして「余白」の目立つ大きな空間。それがいちばん初めの印象だった。
二つの列を成していくつも並ぶソファの一つに、尻餅をつき損ねたかのような姿勢で寄りかかっていた。
やけに暗いと思ったら、照明の類いがほとんど灯されておらず、その女性を除けば人もいないようだった。
少し離れたところにある別の部屋からだけ、煌々とした明かりが漏れている。
置かれた状況をなかなか理解できないままでいると、また声がかかった。
「大丈夫ですか?」
「え? ……ああ、いや、大丈夫だったことないですけど、生まれてからずっと、ハハッ、ハハハハハ」
「? ……えっ……と、とりあえず、タナカさんの……、息子さんでよろしいですか?」
そう尋ねられて初めて、女性が白衣を身に着けていることに気づくと同時に、なぜ自分がその場所にいるかをやっと思い出した。……リヴィングの床にうつ伏せに横たわる父と、テレビの画面に飛び散った血の滴、そして拳の外側にこびりつく、鈍い痛みの感覚……。
「ああ、そうか、そうだった、そうでしたね……」
ポケットから携帯電話を取り出し、時刻を確かめる。午前二時を少し回ったところだとわかった。
「タナカさん?」
「……ああ、いえ、父はどうですか?」
「そのことなんですけど、ちょっとついて来てください」
明かりの灯る部屋へ向かうのかと思ったら、女性の看護師はそこを通過してさらに先へと進んでいく。
二人分の足音が反響して乱雑に響く。




