「不幸」の連鎖、そして「ハゲ」の発覚⑤
Kが去った後、私は改めて教卓の上で仁王立ちし、腕組みをしながら教室全体を見渡していた。
普段口の減らないクソガキどもが、揃ってしおらしく首を垂れる様を見下ろすのはなかなか爽快な体験である。
しかしすぐに私は、順境の裏で実は異変が発生していたのだということに気がついた。
もちろんその「気づき」は、Xの挙措に端を発するものである。
他の生徒とは対照的に、Xは珍しく、勉強に集中できていないようであった。真面目な彼女にはめったにないことだ。
机上にノートやテキストの類いを開き、そのページに目を落としているようでいて、手は全く動いておらず、それどころか時折視線を上げ、上目遣いでこちらをチラチラと見ることを繰り返す。そして私と目が合うたび恥ずかしそうに、だが大きな動作で視線を再び手元に落とすのである。
……これはいったいどういうことだろうか?
もちろん初めは気のせいかと思った。
私が彼女を見るならばいざ知らず、その逆の事態が発生する可能性を、私は想定できていなかった。
だがそれでいて、様子がおかしいのは明らかだと思われた。
……いったい何なのか? どうしたというのだろうか?
私の中で一つの「解釈」が生まれたのは、視線の交錯する回数が五回を越えた時だった。
そして「回数」が十回を超えたところで、「解釈」は「確信」に変わった。
その「確信」とは、「もしかするとXは、私に感謝の念を伝えたがっているのではないか」というものだ。
もちろんすぐ前でクズどもの魔の手から身を挺して救出してやったことに対して、である。
つまりその時点でXの中で私の存在は、ただの「親しい講師」から「英雄」へと格上げされていたということになる。
この「確信」が柄にもなく私を舞い上がらせたのは言うまでもないだろう。
だがもちろん私は他の男性「講師」陣とは異なり、「性犯罪者予備軍」ではないので、そのまま勢い余って抱き着いて留置所送りになるようなヘマは犯さなかった。
代わりに教卓から努めてゆっくり降りると、まず「どうした? 何かわからないところあるのか?」と一言告げてから、落ち着いた足取りでXの方に近寄っていった。
つまりXが自分から感謝の念を伝えるのにもってこいの機会を、それとなく作って与えてやったわけである。
私が動き出すや否や、Xはさらに俯いて背中を丸めるようにし、決して視線を上げようとしなくなったが、それでよい、と私は考えていた。その顔の伏せっぷりは、一般的に恥ずかしさの高まりによりもたらされる事象と明確に合致する。
だから私はそのまま進み続けた。
そしてXの真横まで来たところでしゃがみ込み、ほとんど中腰に近い体勢を作った。
威圧感を与えることを避けるため、目線を合わせようとしたのである。要するに、これもまた私の「思いやり」が為させたわざだ。
だがそれが裏目に出た。




