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「不幸」の連鎖、そして「ハゲ」の発覚④

 私が改めて身を起こした時、既にクズどもはどいつもこいつもが虚を突かれたように、あんぐりと口を開けて見事なバカ面を晒していた。

「私語をやめて静かにする」という、人の話を聞く際のごくごく基本的な姿勢にようやくたどり着いたらしいということは「一つの達成」と言えなくもなかったが、私の目的は奴らを黙らせることではなく、その先にあった。そもそもクズのバカ面などを見て、いったい何が面白いというのか。

 私は外皮の一部を失い、中身をむき出しにした時計を掲げて見せつけるようにしながら言った。

「よく見ろ、盗撮用のカメラだ」

 そう、一見ただのデジタル時計にしか見えないその物体の中には、実は小型のカメラが内蔵されていたのだった。時刻表示の右側に微妙に不自然な余白があって、そこにレンズがはめ込まれていた。もっとも、既に滅茶苦茶に破壊されているため、元々の姿は影も形もなくなっているわけだが……。

「危なかったな、俺が気づかなけりゃ、テメエらの痴態が録画されてネットに上げられて全世界同時中継されるところだったぞ、まあそれはそれで、ある意味非常に面白い見世物になるのかもしれないが……、いずれにせよ、俺はお前たちの恩人だ、一生かかっても返しきれない恩を今まさに負ったばかりだ、わかったか? わかったらゴチャゴチャうるせえこと言ってねえで、黙って勉強しろ、いいな」

 言うまでもなく、「時計」の仕掛け人はこの私である。

 二万円以上の大金をはたき、通販サイトで購入し、ひそかに設置しておいたのだ。もう一年も昔のことになる。

 だがその事実はもちろん、私が筋金入りの盗撮魔であることを意味しない。むしろそれは極めて強い「思いやり」が具現化したものである。

 確かにクズどもを撮影するために二万円を支払ったのであれば、単なる「盗撮魔」どころか、「気が触れている」と受け取られても仕方がない。

 だが、実際にはその所謂「スパイカメラ」は、Xの身の安全を確保するためにのみ、用意されたものだった。

 つまり自分の勤務時間外にXが何かヤバいことに巻き込まれた場合に備え、私はそれを設置しておいたということだ。

 レンズを通して得られた映像は、リアルタイムで私の自室のパソコンへ転送されるようになっていた。

 それゆえ私は家にいながらXの周囲に警戒の目を配ることができたわけである。

 そんな言わば二人の「絆の証」を、私は自ら破壊してしまった。まさしく完膚なきまでに叩き潰してしまった。

 そのことが様々な意味合いにおいて、非常に「手痛い」損害であったことはもはや論を俟つまい。

 だがしかし反面、何事においても、「背に腹は代えられない」事柄というのは存在する。

 この場合で言えば、勉強したいにもかかわらず、「お喋り」に巻き込まれてしまったXを救い出すために他に手段はなかった。

 だから私は全く後悔しておらず、むしろあれほど騒がしかったクズどもが、「時計=カメラ」が粉々になる頃には大人しく机に向かい始めたことに対して感動を覚えさえした。……なあんだ、やればできるじゃないか。

 少し経ってからKがやってきて、「おいおいおいおい、なんかすごい音聞こえたけど、大丈夫か?」などと腑抜けた戯言を吐きちらかしてくれた時も、「え? いや、ああ、虫がいたものでね、全長3メートルぐらいあったかなあ、ムカデみたいな感じでね、ああ、でも大丈夫です、もう退治しましたから、感謝してくださいよ、この塾の平和は、これできちんと守られました」と冷静に返すことで事なきを得た私は、いずれにせよこれで一件落着だと、そう考えていた。

 クズどもを黙らせ、Xの救出にも成功し、そしてKの襲来も難なく退けた。これでしばらくの間は、心おきなく「平穏無事な生活」を満喫することができるだろう……。

 しかしその日がいつも以上に「不幸」な日であったことを、私は完全に失念していた。

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