隣人との交流⑨
「……『なってるんですねえ』じゃねえんだよ、俺、『赤子』の噂なんて全然知らずに、普通に放置して仕事行っちゃったよ、そしたら本当にサイアクのことが起こったし……、どうすりゃいいんだ?」
「まあ、お祓いでもするしかないんでしょうね」
「できるのか?」
「……ククク、クククククククク……」
不意に鳩の鳴き声のようなものが聞こえてきたと思ったら、タカハシが腹に手を当てながら笑いを漏らしているのがわかった。同時にどこからともなく新しい酒を取り出し、蓋を開け、それをあおり始める。
……四本目? しかも今度は缶ビールでなく、カップ酒だと? どっから出した? というかどんだけ飲む気だ?
そういう正当な疑問を持て余す私の目の前で、タカハシはむせ返り、今度はせき込み始めた。
……いったい何がしたいのか?
ようやくせき込みが収まり出したところで、タカハシはこちらに手を伸ばしてきた。マメの目立つ右の掌。
「……どうした?」
「そいつを渡してくださいよ、あとはこちらで何とかしときます」
「ソイツ? あ? これのこと? いるの? まあ引き取ってくれるなら、大歓迎だけど、言っとくけど、すぐ泣いてめちゃうるさいよ」
「……」
「人形だと思って舐めてちゃいかんよ、マジで泣くからね、ところかまわず大泣きするからね、覚悟しておけよ」
「……」
タカハシはやはり無言で私から「赤子」を引き取ると、逆に何かを差し出してきた。
もちろん気は進まなかったが、半ば押し付けられるようにして渡されたので、受け取るしかなかった。
そしてつかんだのは……、封筒?
「……なんだ、これ?」
「いいか、俺に何かあったらこれをあの女に渡してくれ、いいか、俺に何かあったらだからな、言うまでもないだろうが、絶対勝手に開けるなよ、いいな、絶対にだぞ」
「アノ、オンナ?」……誰?
再び歩き出したタカハシは、もう二度と振り返らなかった。馬鹿の一つ覚えのようにまた讃美歌を口ずさみ始めたらしく、「ああめえ♪」が徐々に遠ざかっていく。
不完全な野球のユニフォーム姿から繰り出されるその歌声は、距離を置いて客観的に捉え返してみると、異様さがさらに際立つ気がした。全身から放たれる存在感の重厚さが、常人のそれではない。
私もすぐさま目を逸らしてその場から離れた。
だからその後タカハシがどうなったのかは知らない。




