隣人との交流⑧
「わざわざ繰り返さなくていい……、とにかく聞かれたことだけに答えろ、まずさっきのアメイジンググレイスだが、あれはいったい、いきなりどうしたんだ?」
「気づかないですか?」
「え? ……いや、お前がおかしいということならずっと前から知ってるが」
「やっぱりそうか、そうだよなあ、だからダメなんだ」
タカハシがわざとらしく首を振る。
かと思うと、すぐに「ウッ」などと言ってうつむき、膝の間に顔を入れた状態のまま何も言わなくなった。どうやら意味もなく身体を揺り動かしたせいで、酔いから来る吐き気が誘発されたらしい。
面白かったので放置していると、だいたい十分ぐらい経過した後、「まずここに来た理由から話しましょう」などと言いながらタカハシはゆっくりと顔を上げ、そして前方を指さした。
「ほら、あそこにコンビニあるだろ」
「……あるだろ、っていうか、さっき寄ったよな、確か」
言うまでもなく、タカハシがビールを購入した店である。
「あそこにいる店員が可愛くてなあ、俺の今の唯一の心のよりどころなんだわ」
「……? へえ、それはよろしいことだ、だが、犯罪だけは頼むから、やめといてくれよ」
私の心からの忠告を聞いているのかいないのか、タカハシはほとんど空であるはずのビールの缶を掴み、垂れ落ちてきたほんのわずかの滴を舌で受け止めると、またしても清々しいぐらい唐突に話題を転換させた。
「え……っと、タナカさん、でしたっけ」
久々にこちらに視線が向けられる。明らかに過剰な量のアルコールを摂取した後にもかかわらず、その眼は、しかし先ほどよりもよほどクリアであるような気がした。
「いや、ナカムラだが……」
「あ、タナカさん、その『赤子』ですけど、それが何なのか、あなた知ってるんですか?」
「……え? ああ、ついこの間、噂でちょっと聞いたけど」
「ウワサ? その内容は? どんな感じすか?」
激しい追求が続く。
促されたままに話すのは場の主導権を握られているようで釈然としなかったが、他にどうにもしようがなく、また自分も「赤子」についての情報を得たいと思っていたので、Gから聞かされたことを中心に、知っていることをそのまま話した。
泣き喚く「赤子」の怪談がこの街に古くから伝わっていること、街中を歩いていると不意に「赤子」が呼びかけて来るということ、いったん関係を持ってしまったが最後、永遠に付きまとわれ続けること、放置などしようものなら、大きな「不幸」に見舞われること……。
「赤子」の存在は既に自分にとって「死活問題」と化しているため、私としては熱を込めて話したつもりだったが、反面、タカハシは落ち着き払ったまま呟いた。
「へえ、世間ではそんな話になってるんですねえ」




